Let's search for Tomorrow

 

 

 

 

 

 

 「この度は無事のご帰国、おめでとうございます。」
 「ごくろう。」

 数十分後にキムラスカ・ランバルディア王国に到着すると、港には体格のいい男性将校と、厳格そうな表情をした女性将校が立っていた。
 男性将校はゴールドバーグ将軍、女性将校はセシル少将と名乗った。

 「アルマンダイン伯爵より鳩が届きました。マルクトから和平の使者がご同行しているそうですが。」
 「ローレライ教団導師・イオンです。マルクト帝国ピオニー九世陛下から請われ、親書をキムラスカ・ランバルディア王国インゴベルト六世陛下にお持ちしました。謁見願えますか?」

 もちろんです、とゴールドバークは大きく頷く。左側に控えていた、セシル少将に視線を向けて、城への案内を任せた。

 「ちょっと待ってくれ。俺がイオン達を城へ連れて行く。そういう約束だったしな。」
 「ありがとうルーク、心強いです。」
 「見直したわルーク。あなたちゃんと自分の責任をわかっているのね。」
 「左様でございますか。…ところであなた方は?」
 「あ、申し遅れました、ローレライ教団神託の盾騎士団情報第一小隊所属ティア・グランツ響長です。」
 「ローレライ教団神託の盾騎士団導師守護役アニス・タトリン奏長です。」
 「マルクト帝国軍第三師団師団長ジェイド・カーティス大佐であります。陛下の名代としてまいりました。」

 ジェイドが名乗るとゴールドバーグ、セシルの表情が驚愕に変わる。

 「…貴公があのジェイド・カーティス…。なるほど、マルクトも本気なわけですな。」
 「国境の緊張状態がホド戦争開戦時よりも厳しい今、本気にならざるを得ません。」

 その通りだ、とゴールドバーグは頷いた。

 「公爵家の使用人ガイ・セシルだな。公爵がお呼びだ、セシル少将と共に公爵家へ。」
 「解りました。」
 「して…彼女は?」

 ゴールドバーグの視線が鋭くに届いた。が反射的に肩をすくめるとイオンがすいて進み出てを庇う。

 「彼女は僕がインゴベルト国王の御前でお話します。この場で名乗る事が出来ないのは不問にしていただけませんか。」

 丁寧な言葉遣いだったが、相手に否定を許さなかった。大の大人が十代の少年のすごみに尻込みし、ゴールドバーグはイオンの言葉に従った。

 「それではルーク。案内をお願いします。」
 「お、おう…、じゃ行くぞ。」

 

 バチカルは王都とだけあって、街の大きさも、人口も、他と比べようがないほどだった。
 自然に出来た大きな竪穴の洞窟を要塞として作り上げた街だとガイが簡単にかいつまんで説明すると、ティアが合理的ね、と同意した。
 街並みや、建物は欧州諸国の風景を思い出させる。

 「これに乗って、メインストリートに行くんだ。」
 「ほぅ…。」

 ガイが天空滑車を指差し、ルークに教える。ルークの後ろでジェイドガ物珍しそうに頷いた。浮かない表情のルークを気にしつつ、は天空滑車に乗り込んだ。
 アニスが小声で、お金持ち、お金持ちと呟いてるのが何かの呪文のようでは苦笑した。
 数分で港からメインストリートへ出る。港は物資の流通で賑わい、ざわめいていたが、こちらは港とは違った賑やかさがあった。
 店頭に並ぶ食品や、装飾品、花。また、旅人の護身用に剣や防具、薬なども並んでいる。

 「…っち。自分の街に帰ってきたってーのに…全然帰ってきた気がしねぇ。」

 ルークの小さな呟きを拾ってしまい、は気まずくなって俯いた。それを見たイオンが体調が悪いのか、と気を使ってくれたがは首を横に振るだけの返事にとどめた。
 バチカルの街には昇降機が二つがある。一つは調整中ということで使用制限されていた。ガイはこっちだ、といって、少し離れたところにある昇降機を指した。
 全員が昇降機に乗り、ゆっくりと動き出すと、の気持ちも少し浮上した。だんだん小さくなっていくメインストリートに人々。だんだん近づいてくる軍事武器。昇降機が止まり、更に上に上る為にキムラスカ兵が見回る傍を縫ってもう一つの昇降機へと急ぐ。すれ違う兵たちはルークを見て立ち止まり、出で立ちを正した。

 この先がキムラスカ・ランバルディア王国の誇る王宮だ、とガイが言い足す。目前に広々とした視界が開けた。眩しいばかりの太陽の光が降り注ぐ。
 連絡を受けていたのだろう兵士が駆け寄ってきてご苦労様です、と敬礼した。

 「んじゃ、俺は公爵に呼ばれてるみたいだから先に屋敷に戻るな。」
 「あぁ、」

 ガイはそういうと軽く右手を上げて、屋敷へ駆け出していった。ルークは生返事を返して、絢爛豪華な装飾が施された自身の家を見上げた。

 「ルーク?」
 「ああ、今行く。」

 ジェイドがルークを呼び、ようやく王宮へと足を向けた。

 王宮の中はが想像していた通りの雰囲気で包まれていた。
 絨毯がひかれ、等間隔に騎士が立ち並ぶ。真正面を進むめば謁見の間に辿り着くというのに、その距離が長い。

 ルークは慣れた様にその中央を歩く。続いてイオン、アニス、、ジェイド、ティアが歩いた。
 長いエントランスの抜け、階段を上りきると、謁見の間の扉が我が物顔でそびえていた。ルークはその取っ手に手をかけ、あけようと力を込める。

 「お、お待ち下さい!陛下は只今客人と謁見中でございます!」
 「あぁ?!どーせモースとかいうやつだろ?!」

 なんとも横暴なやり方だ。は目を丸くしてその様子を伺う。

 「しかし!」
 「お前俺を誰だと思ってるんだ!しつこいようならクビにするぞ!!」

 クビ、といわれてその騎士は黙った。最初からそーすりゃいいんだ、とルークは悪態吐きながら謁見の間に入った。

 「伯父上!モースの言葉は偽りだ!」
 「何者だ無礼者!陛下は只今謁見中であるぞ!」
 「おぉ、ルーク!鳩が届いて無事を知っていたが、良くぞ無事に戻ってきた。心配したぞ。」

 インゴベルトは玉座に座りルークを一目見て表情を和らげた。ルークと知らずに声を荒げたアルバインはもごもごと口動かして一歩下がった。

 「インゴベルト六世陛下、ローレライ教団導師イオンであります。マルクト帝国ピオニー九世陛下に和平の使者にと請われ、親書をお持ちいたしました。」
 「ピオニー九世陛下の名代として参りました、マルクト帝国軍第三師団師団長ジェイド・カーティス大佐であります。」

 導師イオン…とモースが呟いた。アニスが鋭い視線をモースに向ける。

 「うむ、確かに親書は受け取った。よく参られた、さぞお疲れの事であろう、客間へ案内しますぞ。」
 「どうぞ、お構いなく。…その前に陛下、紹介したい方がおります。」

 む、とインゴベルトは眉をしかめ、イオンはの手を引いて自身の横に並ばせた。

 「導師イオン!よもや、その娘…!」
 「えぇ
大詠師モース。あなたの考えている通りです。陛下。この方は異世界より参られました。名を『』と申します。」

 イオンはが身分の高い人間のように紹介する。現実世界では確かにそこそこの身分にはいたが、それは自身がではなく、両親が築き上げた地位だ。
 は意味がわからずに、イオンを見つめた。意味が解っていないのはモースを除く全員のようで、視線はイオンとに集中する。

 「…して、その異世界から参った娘、どうしたか?」

 インゴベルトは異世界、と聞いて驚いたようだったがそのそぶりをあまり見せずに尋ねた。

 「恐れながら陛下。二千年前…譜術戦争末期に現れた天才譜術士『ユリア・ジュエ』は周知の事と存じます。ユリアは大譜歌により『ローレライ』と契約し、預言を残した。その預言の中にはローレライ教団の上層部の者しか知らない『秘預言』というものが存在します。」
 「その中の一節に詠まれている預言を聞いてください。」

 モースが説明したのをついで、イオンは一度言葉を切り、再び話し始めた。謁見の間に居る全員がシンとし、イオンとを交互に見据える。

 「『ND2018
  ローレライの力を継ぐ若者の目前に異世界より出でし少女あり。
  彼は未知なる力を持つてオールドラントの未来を担うが その力ゆえに悲劇を招くであろう。
  彼は我が生まれ変わりし姿。人々の憎悪を背負い生きねばならん。』」

 最後の一文を聞いた全員がを見据えた。その表情はどれも驚愕に満ちていた。

 「な、なんと…!ではその娘が『ユリア・ジュエ』の生まれ変わりというか!」
 「はい、左様でございます。」

 インゴベルトの言葉に頷き、イオンが一礼し一歩下がると、だけがその場に残された。

 「わ、私そのような人間ではありません!」
 「いや、お主は預言に詠まれていた。そしてその通りに出現したのだ。『ユリアの預言』に間違いはない…!」
 「ふむ…。どうやらその娘…と申したか。客間へ案内しよう、しばし休まれよ。使者の方々もご苦労であった…。」
 「恐れながら陛下、私はルークの屋敷を拝見したいと思います。」
 「解った。では後ほど、王宮の方へ参られよ。」

 謁見の間からどうやって客間に移ったのかはよく覚えていない。イオン、モース、インゴベルトの言葉が頭の中でぐるぐるしていて激しいジェットコースターを乗った後のように気持ち悪かった。ベットの上に気だるい四肢を投げ出し、真っ白い天井を呆然と見上げているうちにの意識は夢の中へと落ちていった。

 

 

 

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アトガキ。

約一ヶ月ぶりの更新…_| ̄|○スイマセン…
ようやく、ヒロインの正体が判明しました!!(´∀`*)ウフフ 長かった…。
ルークの旅も一旦終了です!