Let's search for Tomorrow

 

 

 

 

 

 駆け込んできた兵士の後から現れた神託の盾騎士には目を見開いて、先程渡された短剣を握り締めた。だが、よりもガイやジェイド、ティアがすばやく攻撃したおかげで、の出番は無くなった。

 「やはり、イオン様をキムラスカに行かせまいと…?」
 「そうですね…。水没させるつもりなら突入は無いと思いますし。狙いは十中八九艦橋の強奪でしょう。」
 「…って事は、制圧される前に艦橋を確保しろ…ってか。」

 そういうことですね。とジェイドがガイに頷く。
 部屋を勢いよく飛び出し、艦橋を目指して小走りで進む。神託の盾騎士団と遭遇してしまうと否応無く力でねじ伏せ、甲板へと出た。潮風が心地よく吹いているが、微かな油の臭いがの鼻腔に届いた。

 船の甲板後方へ辿り着くと、神託の盾六神将の一人、ディストが空中を漂う椅子に腰掛け、達を見下ろしていた。
 高飛車な笑い声を上げて、名乗りを上げようとするが…。

 「おや、鼻垂れディストじゃないですか。」
 「誰がですか!薔薇!バーラッ!!バ・ラ・のっディスト様だ!」

 アニスが死神でしょ、と補足するとディストはだまらっしゃい!と一蹴して薔薇のディストと言い直した。は思わず溜息が出た。
 確か、ジェイドとディストは顔見知りで、年齢も同じくらいだ…。そう認識した時、はしたなくも、げぇっ、と声を上げてしまった。

 「ん?どうした、。」
 「い、いえ何でもないです!」

 そう言ってみたもののルークが訝しげに視線を送ってくるので苦笑して答えた。

 「…ディストって確か、ジェイド大佐と同じくらいのお歳なんですよね。子供が駄々こねてる様にしか見えなくて。」
 「ははっ、確かにな!大の大人が呼び名でうだうだ言うなっつーの!ったく…。」
 「そこ!何私を無視してるんですか!それに私は薔薇だと、何度言えば解るのですか?!…あぁ、そうでした、野蛮な猿は何度言っても理解できないようですね。ああ、これだから猿は…。」

 あぁ?と片眉を動かしたルークを宥めつつ、は地獄耳め!と心の中で悪態吐いた。

 「まぁ、いいでしょう。そんな事より、音譜盤の解析データをだしなさい。」

 これですか?とジェイドが懐からデータを取り出すや否や、ディストは目にも留まらぬ素早さでジェイドの手から奪い取った。

 「ふふ、油断しましたね、ジェイド。」
 「差し上げますよ。解析データの内容はすべて覚えましたから。」

 わぁ、とは感嘆をあげた。馴染みが無い文字だとはいえ、書いてある内容はかなり専門知識の要るもので、複雑だったはずだ。
 鳩が豆鉄砲でも食らったかのような表情をディストがしていて、は思わずこみ上げる笑いを必死に抑えた。

 「きーっ!猿が私を小馬鹿にして!!もう許しませんよ!船共々此処で海の藻屑となりなさい!―――行きなさい!私の可愛いカイザーディストR!!」

 どこから現れたのか。上空より突如現れた機械には思わず悲鳴を上げた。それが着地した衝撃で船が大きく揺れ、潮が吹き上がる。
 ディストは上空から愉快そうに眺めていた。彼の行動は他の六神将とはどこか違って見えて、は違和感を覚えたが目の前の敵に気を取られそれも頭の隅に追いやられてしまった。

 「皆さん気をつけてください!アニスはイオン様を!、あなたは私の後ろへ!」

 は渡された短剣を鞘から抜き出し、銀色に光る刃を敵に向けていたがジェイドに後ろへ下がるよう指示され、従った。見上げる程大きな図体をした音機関は幾つもの銃を持っていていつでも火を吹かす事が出来た。
 ルークとガイが先陣を切って、足止めをしている。アニスは後ろに背負っていた人形を巨大化させまたがると「ヤロー、邪魔すんじゃねぇーっ!」とルークに聞こえない様に声を上げて連続攻撃を加えた。
 アニスの豹変ぶりをイオンは知っているらしく何事も無かったかのように戦闘を見つめていたが、とティアは開いた口が塞がらなかった。

 「イオン様、。もう少し後ろへ下がってください。」

 ジェイドが二人へ指示を出し、唱えていた譜術を発動させた。音機関の丁度真下に譜陣が現れ、水が勢いよく噴出した。音機関は奇怪な音を上げて、動きが鈍くなる。

 「き〜っ!陰険ジェイド!私の可愛いカイザーディストRが水に弱いと知っていて…!」
 「おや、それは水に弱いんですか。いい事を聞きました。」

 にこりとジェイドがディストに笑顔を向けると、ディストの顔はますます赤くなった。

 「なんだかジェイド大佐、ディストさんで遊んでますよね…。」
 「そ、そうですね。しかし、彼らにしてみれば懐かしい友との再会ですし、あれが普通なのかもしれません。」

 音機関は耳障りな音を上げているが、いっこうに倒れようとしない。さらには、方向を変えることが出来ず、イオンとがいる方へ向かって突進してきた。

 「しまった!」
 「! クロア リョ ズェ トゥエ リョ レイ ネゥ リョ ズェ。」

 はとっさにイオンの手を握り、瞼をきつく閉じた。誰かが叫んだ後、優しい旋律の声がした。体の内側がほんのり温かくなり、母親の腕の中に居る様な安心感を覚えた。

 『―――を解放せよ!』

 あの時の声がうるさくの頭の中に響き、それを振り払うかのようには唱えた。

 「ヴァ ネゥ ヴァ レイ ヴァ ネゥ ヴァ ズェ レイ。」

 幾つもの光の筋が、上空から音機関目掛けて降ってくる。それは目を開けていられないほどの閃光を放ち、音機関に衝突した。
 次の瞬間、音機関は轟音を上げて爆発し、破片が飛び散った。
 しばらく耳が麻痺したかのように静寂だった。音機関の破片が黒い煙を上げている。ディストはわなわなと手を震わし、おぼえてさい!と捨てゼリフを吐いて退散した。
 は自分が何をしたのかよく解っていなかった。ずっと握っていた手をイオンが優しく握り返して初めて我に返った。みんなの視線が凝然とを見据えていた。

 「…ユリアの譜歌…ですね。」
 「何故が…?」

 ジェイドが呟き、ティアが驚愕の表情のまま同意した。

 「なんだよ、敵倒したんだからいーんじゃねぇ?そんなにユリアの譜歌?ってのが大事なのかよ、」
 「そう言ってもなぁ、ルーク。少し説明したけど、譜術を使えるのは譜術士だけだ。一般の譜術士でも第七音素を使う事が出来ないのに、その中の第七音素譜術士でも殆ど扱う事が出来ないユリアの譜歌をは使ったんだ。そりゃ、みんなビックリもするさ。」
 「…の事についてはひとまず保留にしましょう。私達の目的は親書をキムラスカ国王インゴベルト六世陛下に届ける事です。」

 物言いたそうにアニスが口をぱくぱくさせたが、ジェイドの一声に皆頷き、到着までの間を自由行動にして解散した。
 ジェイドは艦橋へ、ルークとガイ、ティアは船室へ戻った。

 「、大丈夫ですか?」
 「…。」

 は未だに呆然とイオンの手を握っていた。彼はとても懐かしい感じがして、離すのが嫌だと思った。

 「イオン様、の事何か知ってるんですか?」

 アニスが訝しげにイオンを覗き込んだ。イオンは苦笑して首を縦に振る。

 「それは陛下の御前で言います。アニス、すいません。」

 アニスは力いっぱい首を横に振って、謝らないで下さい〜と言うしかなかった。

 

 

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*20060308*

 

 

 

 

 

 

 

 

アトガキ。

えと、更新が遅くなってゴメンナサイ。ブログ読んでくださってる人はご存知かもしれませんが、只今北京に留学中でございます。
更新速度が遅くなりますが、連載は続けますので気長にお待ち下さい。