Let's search for Tomorrow

 

 

 

 

 

 流通拠点の街・ケセドニア。
 南からの乾いた風が砂を含んでいて埃っぽく、そして陽射しがきつい。は制服の袖を捲り上げた。
 流通拠点の街はその名の通り、此処は食べ物、武器、防具、薬の種類が豊富であり、キムラスカ人、マルクト人両国の人がごった返して賑わっていた。
 たまに暴動もあるようだが少なくとも此処は戦争とは関係無く感じられた。

 「此処はキムラスカ、マルクトとは違って自治区ですからね。皆が自分の行いは自分で対処します。なので国家間の政治争いに巻き込まれないのでしょう。」

 思った事をイオンに告げるとイオンはそう答えた。なるほど、とは思う。

 「あーあ…せっかくヴァン師匠と旅が出来ると思ったのに。」
 「まぁ、そういいなさんなルーク。グランツ謡将だっていろいろ忙しいんだよ。」

 不平をもらしたルークを宥めつつ、ガイは苦笑した。ヴァンとはマルクト領事館前で別れた。アリエッタをダアトの監査官に引渡し、しかるべき処罰を受けさせる為だ。
 は正直、彼と別行動を取る事に胸を撫で下ろした。彼―――ヴァンに対し気を抜く事が出来ない。

 「あーら、こんな場所ではめったに見かけない素敵なお方。」

 先を行くルークに女性が声をかけた。豊満な胸、くびれた腰、ほっそりとした四肢、そして少し高めの猫撫で声。なんとも魅力的だが…。
 (メイクが濃い…!)
 は心の中でダメ出しした。
 女性は魅力的な身体を使い、ルークに擦り寄る。その時、女性の右手がルークの懐に入ったのをは見逃さなかった。

 「あーん!アニスのルーク様が年増にぃぃ〜!!」
 「誰が年増だって?!…ふん、お子ちゃまには女の魅力ってのがわかってないようね。それでは、この街を楽しんでいらしてね。」

 女性はルークから身体を離し、その場を去ろうと動くと、ティアがその行く手を阻む。

 「待って!今盗った物を返しなさい。」
 「…はんっ、ぼんくらばっかりじゃなかったか!ヨーク後は任せた!ウルシーずらかるよっ!」

 女性は叫ぶと仲間の名を呼び、ルークの財布を空中に投げた。それを受け取った男―――ヨークは女性と一緒に逃げる男―――ウルシーとは別の方向へ駆け出したが、ティアの小型ナイフがヨークのズボンと地面を縫いつけた。

 「…っ!」
 「盗った物を返せば無傷で解放するわ。」

 ティアは冷めた目で淡々とヨークにいう。小型ナイフは未だヨークの首筋に向けて。ゆっくりとした動作でヨークが財布を返すとティアはナイフを仕舞う。その隙にヨークは全速力で駆け出した。

 「はわ〜。」
 「すごい…。」

 とアニスがティアに対し感嘆の声を上げた。

 「この『漆黒の翼』に楯突こうなんていい度胸だ!覚えておくんだなっ!」

 上空から声がしてが振り向いた時はすでに三人の姿は無かった。
 ルークにとってはとんだ騒ぎとなったが無事に財布も取り返し、街を散策しながら薬や食材を買い揃えた。
 街の南側にはキムラスカ領事館がある。
 領事館の奥で船の準備具合を尋ねるとあと少しで整うらしい。

 「ご準備が整いますまで、街を観光なさったらいかがですか?」
 「なら、その時間でこの音譜盤の解析をしないか?」
 「音譜盤の解析機でしたらケセドニア商人ギルドのアスター氏を訪ねるといいでしょう。国境の真ん中に立てられた豪邸がそうですよ。」

 領事が言うと、ガイはそれに頷いてルークに許可を求めた。

 「いいんじゃねぇか?」
 「決まりだな。」

 来た道を引き返し、国境に立てられた豪邸を目の前に、は開いた口が塞がらなかった。自身の家もなかなか大きいが、これほどではない。

 「…アラビアンナイトな感じ。」

 宮殿の離れの一室を思わせる屋敷には素直な感想を述べた。風が砂を巻上げ、空中を舞う。砂に含まれた鉱物が反射してキラリと光り、より幻想的に見せた。
 屋敷のドアを叩くと使用人が現れ、応接室へと案内する。しばらくして屋敷の主、アスターが登場した。

 「これはこれはイオン様、そして皆様。ようこそいらっしゃいまし。この度はどのようなご用件で?」
 「音譜盤の解析をお願いしたいのです。」
 「…解りました。」

 アスターは二回手を叩いて、使用人を呼びつけると音譜盤の解析に取り掛からせた。はその光景を見て忍び笑いを漏らす。アスターの行動が、父親にそっくりだったのだ。
 ほんの数分で先程の使用人が音譜盤と解析用紙を持って出てくる。ガイがそれを受け取り、お礼を言ってアスターの屋敷を後にした。

 「丁度良い暇つぶしが出来たな。船の上で読もう。」

 ガイは嬉しそうに懐に挟んだ時だった。
 は一瞬突風が吹いたのかと思ったが、軌跡に黒地が残る。ガイの少し前を歩いていたはとっさに身体を動かし、鋭く光る銀の軌跡をずらした。それはガイの右上腕二等筋を掠る。音譜盤と資料がその拍子に地面に舞った。
 ガイは勢いで地面に伏せたが、何とか資料をかき集める。しかし音譜盤はシンクの右手に握られていた。

 「ガイ!大丈夫?!」
 「シンク?!」
 「その資料をよこせっ!!」

 再びガイ目掛けて走りこんできたシンクをはとっさに砂を吹っかけた。仮面をしているとはいえ、思わぬ反撃にシンクは一瞬怯む。

 「!逃げますよ!!」

 ジェイドがの左手を握り、走り出す。イオンとアニスが先に船に乗り込んでいた。ジェイド、、ティア、ガイが続き、最後にルークがミュウを掴んだまま船に飛び乗ると船は汽笛を三回鳴らして港を離れた。

 船は無事に出航し、キムラスカ=ランバルディア王国首都・バチカルに航路を取る。心持少し早めのスピードで進む船は大きく白波を立てた。
 は深呼吸を繰り返して、乱れた息を戻した。船の一室に全員が収まると、先程の資料を机に広げる。

 「ガイ、傷は大丈夫ですか…?」
 「あぁ、只の掠り傷だ。がシンクのナイフの軌道をずらしてくれたからな。」

 イオンの心配を拭うように歯を見せてガイは笑って見せた。服に切り傷がついているが、身体への傷は無い。イオンは胸を撫で下ろした。ガイはに向かって有難う、と言う。顔に熱が上るのをは感じた。

 「は武術か何かやっていたのですか?」
 「たいしたことはありませんけど…護身用にと父から剣道を少し…。」
 「ケンドー?何々?」

 アニスが瞳を輝かせての傍に駆け寄る。こういう時のアニスは何か儲け話では無いかと予測しているに違いない。は苦笑して先手を打った。

 「剣道はお金に関係ないわよ。」
 「なんだぁ〜。ちぇ〜。」

 笑い声が船室を満たした。が簡単に剣道の説明をする。それを聞いて、が少しは剣術を心得ていると判断したジェイドが荷物の中から短剣を渡した。

 「ひとまず、それで。私達はイオン様とあなたに危害が無いよう戦って来ましたが、今後危険が及ばないとも限らない。万が一の場合、あなたにも戦ってもらわねばなりませんのでお渡ししますよ。」

 手の中の短剣を見て、は有難うございます、と応えた。どうやら、少しは信用してもらえたみたいだ。

 そして、話は資料に移る。
 ガイが読み終わった後、それはジェイドに回されも興味から資料を覗き込んだ。難しい方式や、読めない文字(古代イスパニア語とフォニック文字)で綴られていたが、ガイやジェイドが呟く言葉を聞いた。思わずは呟いた。

 「"ローレライ"?」
 「"ローレライ"とは第七音素意識集合体の総称よ。」
 「音素は一定数以上集まると自我を持つといわれているそうですよ。それを操る事で高等譜術を使う事が出来るんです。」

 総称には名前もある、とガイはアニスに続けて言う。ルークはあまり興味なさそうにしていたが、はへぇ、と頷いた。

 「"ローレライ"はまだ観測されていません。いるのではないか、という仮説なんです。」

 仮説、と聞いてははっとした。コーラル城であの音機関を起動された時、"声"は確かにローレライといわなかったか…?

 「?どうかしましたか?」
 「…なんでもありません。」

 こちらの世界の事は知らなさ過ぎる。確証も無いまま発言したところで、謎が深まるばかりだ。
 話は音素振動数に戻る。
 音素振動数は物質全てが発し、指紋のようにすべて違うのだ、とティアは話す。同位体は音素振動数が全く同じの固体の事で人為的に造らないと存在する事はないのいだという。

 「同位体がそこら中に存在していたら、あちこちで超振動が起こって大変でしょうね。…同位体研究は兵器に転用できるという事で、軍部は注目していますが…。」
 「そういえば、昔研究されてたフォミクリーって技術なら、同位体を造れるんですよね?」
 「フォミクリーて…あれだろ?ほら、複写機みたいなもの。」

 ガイがわかりやすい例えを出したおかげで、もフォミクリーという技術が大体予想つけることが出来た。現実世界で言うクローンの事だろう。

 「フォミクリーで造るレプリカは只の模造品ですよ。姿形は一緒ですが音素振動数は変わってしまい、同位体を造る事など…出来ません。」
 「なー、もう難しい話はやめようぜ!その書類はジェイドが…。」

 はルークの意見に賛同した。今聞いた事を一度整理しないと、沢山の情報に脳が破裂しそうだ。
 その時、ノックもなしに兵士が駆け込んできた。

 「大変です!船後方、ケセドニア方面より多数の魔物と正体不明の譜業反応を確認しました!」

 一同に緊張が走った。
 バチカルはもう目の前だというのに…!

 

 

 

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*20060218*

 

 

 

 

 

 

アトガキ。

まだバチカルにつけません…_| ̄|○
ケセドニアでの漆黒の翼のイベントと、船室でフォミクリーについての説明はどうしても省く事が出来なくて本編のままで何かとクドイです…。