Let's search for Tomorrow

 

 

 

 

 

 

 翌朝、目を覚ましたの第一声はけたたましい悲鳴だった。
 その悲鳴によって、ルークとミュウが目を覚まし、部屋のドアを勢いよくジェイド、ガイが開け雪崩のように押し寄せた。

 「何事ですか?!」
 「ま、まさかルーク様に手を出そうと…?!」
 「見損なったわルーク。寝ている女の子に手を出すなんて!」

 次々出てくる罵声にルークは誤解だっ!と怒鳴った。それを見て、はぱちりと目を瞬かせる。痺れているような不思議な感覚を右手に受け、視線を向けるとその先にはルークの服を掴んでいる自身の手。
 ぱっと手を離し、自身のせいで朝から賑やかになってしまった非礼と、服の裾をずっと握り締めていた事に対して頭を下げる。

 「ご、ごめんなさいっ!」

 の謝罪によって、ルークは無実となった。
 昨日はを早く休める為、報告できなかった事が何点かある。それをキムラスカ・ランバルディア王国の首都、バチカルにいるインゴベルト六世に知らせる為、カイツール軍港に設置された軍基地へ向かう。中ではアルマンダイン伯爵とヴァンが談笑していた。

 「これはこれはルーク様、おはようございます。よく眠れましたかな?…お久しゅうございます。大きくなられましたなぁ。」

 アルマンダインはにこやかに話し始める。ルークの頭にクエスチョンマークが飛んだ。覚えてねぇ、とルークが呟く。アルマンダインの表情が少し寂しそうに見えたが、お小さい頃でしたから、仕方ありませんね。と結論づけた。

 「…ところで、叔父上に伝書鳩頼めるか?」
 「ご伝言…でございますか?キムラスカに到着なさる前には届くと思いますが。」
 「それでいい。これから、ローレライ教団導師イオンと、マルクト帝国軍ジェイド・カーティス大佐を連れて行くって…。」
 「ジェイド・カーティス?!貴公、『死霊使いジェイド』か?!」

 アルマンダインは目を見開いてジェイドを見据える。ルークが言った一言で部屋の中は緊張が走った。は思わず生唾を飲む。
 ある程度、この世界のことを知っているといってもこの辺りのことは無知だ。恐らくゲームに沿って進んでいるに違いない。
 が不用意に口を挟むことではないので、事の成り行きを見守っているだけだった。
 ふ、と視線を感じて顔を上げるとヴァンと目が合った。彼はルークの剣の師匠で、ティアの兄と認識している。ヴァンはに対し笑みを向けた。その時、背中にぞっとするものが駆けた。慌ててはヴァンから視線をはずす。脳が異常なほど警報を鳴らす。
 ―――彼は危険だ…!
 跳ねる心臓を撫で付け、は話が終わったルーク達の後を追って、軍基地を出た。その後姿をヴァンはただ静かに見つめていた。

 船の修理も完了し、ルーク達はいそいそとそれに乗り込む。だけが乗船するのを渋った。

 「どうかしたのか、…?」
 「ガイ…私、一緒にバチカル…に行っても良いのかしら?」

 なんだ、そんなことか。とガイは笑った。

 「確かに、キミは身分証明するものが無い。正直未だ警戒はしている…。けどここにいても仕方がないし、バチカルなら何か帰る方法が見つかるかもしれないだろ?」
 「…ガイの言うとおりだよ。…と呼んでも構わないのかな?」

 の背後からガイに賛同する声があった。はびくりと肩を揺らしてその声の持ち主を確認する。頭は再び危険信号を発するが身体がすくんでしまっていた。

 「あ、はい。で構いません…グランツ…さん。」
 「驚かせたならすまない。それと私の事はヴァンと呼んで欲しい。…昨日は詳しく聞けなかったがバチカルに戻るまで時間は有る。君の事を知っておきたい。」

 は首を縦に振るのが精一杯だった。

 「おーい!師匠、ガイ、!早く乗れよ!」

 ひょこりと甲板から顔を出したルークが三人を呼んだ。ガイが返事をし、階段を上る。ヴァンがをエスコートして乗船した。
 船は颯爽とカイツール軍港を後にした。

 乗船して直ぐ、自由行動となった。ただは…、とジェイドが言葉を濁した。ジェイドもを少し警戒している。ヴァンが話を聞きたいと言う事でと一緒に行動する事に納得し、船室へ入っていった。暗い表情を見越してか、ヴァンはにこやかにを甲板へ出るように勧め、白波をあげる海へ視線を移した。
 は、自身に置かれた立場を十分には理解していたし、突然異世界から来た、といわれて信じてもらえるとは思っていなかった。だが、先程のガイの言葉がの脳裏をぐるぐると廻る。

 『正直、まだ警戒はしている―――。』

 「どうした、船酔いでもしたか?」

 ヴァンが顔を覗き込んでの様子を伺う。いえ、大丈夫ですと応えては押し黙った。

 「先程のガイの言葉か?」
 「え…?」

 はビックリしてヴァンを見上げた。やはりそうか、とヴァンは笑っての肩に手を置いた。

 「君の現状ははっきり言って微妙だ。しかしの出現は詠まれていたんだ…私は知っている。君はこの世界に必要だから、異世界から飛ばされてきたのだよ。」
 「よ、まれていた…?」

 そうだ、とヴァンは頷く。
 ローレライ教団の中でも詠師職以上しか知らない預言がある。それを秘預言と言う。(これははまだ知らない情報だった。)ヴァンが言うにはそれに詠まれていた、というのだ。

 「しばらく君は辛い目に合うかも知れない。しかし、の存在を世界は認めざるを得なくなってくるのだ。」

 はヴァンの瞳を見つめていた。最大の警告音を発しているが、瞳をそらす事が出来なかった。二人が押し黙った時間が果てしなく感じられたが、異常な気配には気を尖らせた。

 「どうした?」
 「ものすごい気?…みたいなものが。反対の甲板からかしら?」
 「…ふむ。いってみよう。」

 二人は反対の甲板へ移動した。そこで、船の一部が消失しているのを発見し、その先にルークが力を暴走させていた。

 「ルーク!」

 ヴァンはすぐさまルークの元へ駆け寄り落ち着くように指示を出す。ゆっくり、ゆっくりと呼吸を整えるように促すと、力の暴走は収まった。
 無茶な暴走の為か、ルークはその場にしゃがみこむ。、とヴァンに呼ばれ、少し離れていたところからようやくルークの傍に行く。

 「大丈夫?」
 「あぁ…。なんなんだよ…こんなの初めてだ。」
 「超振動が発動したのだろう。」

 超振動…?とルークとは繰り返した。

 「ルークがタタル渓谷に飛ばされた時の物ですか?」
 「、何で知って…って、そういや本で読んだんだったな。」
 「…そうだ。しかし、不完全な超振動だ。…ルーク、お前が何故七年も軟禁されていた事、疑問に思った事は無いのか?」

 え…、とルークは言葉を濁らせた。ルークからへとヴァンは視線を移す。見据えられては生唾を飲み込んだ。

 「、君ならわかるかい?」
 「わ、たしは…。…憶測ですが、ルークには何か特別な力が有り、その力を利用する為に誘拐ないし、軟禁されたのではないかと思います。」

 は思った事を素直に告白した。驚愕の表情でルークがを凝然と見ている。あくまで、これは憶測だった。が知っている情報は七年前にルークがマルクト帝国によって誘拐された事、記憶を失っている事、ルークが第七音素譜術士である事。そして、こちらの世界にやってきて両国の状況から考えると、ルークは戦力として戦争で使用されるのでは、という結論に至った。
 ヴァンは満足した笑顔で力強く頷いた。

 「その通りだ。ルークの父親、そして陛下共にその力を利用しようとルークを軟禁していた。お前には、超振動を一人で起こせるという特技がある。」
 「超振動は、本来二人の第七音素譜術士の干渉があって起こるものでしたよね?それを一人で行えるとなると…。」
 「ま、待ってくれよ!じゃあ俺は一生このまま…?!兵器とされ戦場へ狩り出されるのかよ!」

 落ちつけ、ルーク。とヴァンはルークの肩に手を乗せた。

 「何の為に導師イオンと、マルクト帝国軍人が親書を持っているのだ?戦争を回避する為だろう?二人が無事に陛下に謁見し、開戦することが無ければ、少なくとも理不尽な軟禁からは解放されるだろう。それに、もいる。」

 …が?ルークはヴァンの視線がに移るのを追いかけた。二人に見据えられてはどきりとする。

 「わ、私?」
 「師匠、なんでが…!は突然現れた変な奴で…。」
 「ルーク。彼女には先程話したが、彼女の出現は偶然では無く必然だったのだよ。詠まれているのだ、ユリアが残した預言に…!」
 「…ほ、本当に…本当に今の生活から抜け出せるかな…?」

 ヴァンは大きく頷く。逆に、は何故か危険を感じた。何故預言と言われるだけで、皆信じてしまうのだろう。あまりにも依存しすぎているのではないか。そう思ったとたん、この世界が恐怖に感じられた。また、ルークがヴァンを信頼している事はよく解っているつもりだったが目の当たりにして、慄いた。

 「自分を信じろルーク。超振動という力が、お前を英雄にしてくれる。」

 ヴァンの言葉をルークは鸚鵡返しした。
 キャツベルトはケセドニアに到着した。此処でバチカル行きの船に乗り換えるのだ。

 

 

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*20060207*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アトガキ。

漸くケセドニアに着きました〜。
あー…ヒロインの過去話をするつもりだったのに、ヴァン師匠の話が長くて…(笑)
このシーンの為にアビスを三回プレイしました。(苦笑)もちろん、セーブしていた分ですよ?(三回も最初からやってる時間ありませんしねv)おかげでセーブデータは20近くあります…_| ̄|○