Let's search for Tomorrow

 

 

 

 

 

 風に揺すられ木々の葉が音を立てた。小鳥の囀りも聞こえる。
 ふと気がつくと、は薄暗い木々に囲まれた森の中に倒れていた。
 硬い地面の上に横たわっていたせいか、身体中が悲鳴を上げる。痛みに眉をしかめ、は両手をついて起き上がった。制服についた土を叩き落とし、辺りをぐるりと見渡す。森の切れ目は見当たらず、は不安に駆られた。
 見知らぬ土地、風景、理解できない状況に軽くパニックを引き起こす。
 ―――自分はほんの先程まで自室でテレビ画面と向き合っていたはずなのに。
 パキ、と背後から音がしては身体を縮み上がらせた。荒い息遣いが耳に届く。嫌な予感が胸を過ぎる。じゃり、と砂を捕らえた足音が近くですると、の恐怖は絶頂に達した。恐る恐る振り返ると、そこには数匹の見たことも無い…否、見覚えのある生物がギラギラとした目つきでを捕らえていた。

 「な、何故、」

 の問いに答える者はいない。身の危険に、頭は逃げろと命令するが、腰が抜けてその場に座り込んだ。その間にも、魔物は距離を詰め、そして、跳躍した。

 「きゃぁあっ!!」
 「伏せてろっ!」

 怒鳴るような声がし、強い力で地面に押し付けられた。空を切る音が耳鳴りのように聞こえる。は眼をきつく閉じて、早く恐怖が過ぎ去るのを待った。
 数分もしない内に、その場は静かになった。鈍いしたたる様な音が耳につくが、気にしないように努めた。―――誰だかしらないが、を助けてくれたのは事実だ。
 恐る恐る瞼を持ち上げると、飛び込んできたのは水溜りの紅だった。

 「―――っ!!」
 「あなた、大丈夫?魔物は倒したわ、安心して。」

 いつの間にか、頭の上の強い力は除かれていた。必死に握り締めていた手に爪の跡が残り少し血が出ていた。
 はゆっくりと起き上がり、極力、紅を見ないように魔物を倒してくれた人物を見た。
 紅い長髪の髪に翡翠色の瞳の少年と、金色の短髪の青年、亜麻色の長髪の少女、こげ茶色のツインテールの少女、メガネの奥の赤い瞳が特徴の男、清楚で高貴な出で立ちの少年、そして青い小さな獣。十四の瞳がを凝視していた。
 は眼を見開いた。先程の魔物を眼にしてまさか、とは思ったがこんな事がありえるのだろうか。

 「た、助けていただいて有難うございます、」

 はなんとかそれだけを口にした。初めて体験した恐怖に身体の震えが収まらない。

 「あなたはどうしてこんな場所にいるのですか?…見たところ旅をしているようではないですし。普通は丸腰で外を出歩いたりはしませんよ?」
 「大佐、とりあえず彼女が落ち着くまで待ちましょう。…私はティア・グランツ。あなたは?」
 「…。」
 「…?聞きなれない名順だね。もしかして、が名前で、が姓?」

 背中に人形を背負った少女は確か、アニス・タトリンだ。そうでない事を切に願ったが、アニス、と深緑の髪の少年に少女が諫められ、期待は裏切られた。
 はアニスの問いに対し首を縦に振った。掌に出来た小さな傷がじくじくと痛む。―――夢ではない…夢じゃないんだ。とたん、涙が零れた。
 その場にいた全員がぎょ、としたに違いないがどうしても涙を堪える事が出来なかった。ティアがの傍で"大丈夫"の呪文を繰り返した。

 先を急ぐ、と言うことで歩き出した。その場にを残してはおけないとイオンが進言して、一緒にコーラル城を目指している。森を抜けたところで大佐―――ジェイド・カーティスが口を開いた。

 「さて、あなたからお話を伺いましょうか。」
 「率直だなぁ。」

 ガイ・セシルが苦笑した。は視線が自身に集中している事に居心地の悪さを感じたがいつまでもそう感じていてはいけなかった。ここにいる者達しか、"この世界"の知り合いは居らず、また、居場所もないのだから。

 「私は、といいます。…、そういった方があなた達にとっては聞きなれていると思います。…すぐに信じて頂けないお話だと思いますが、私はこの世界の人間ではないと思います、」

 その考えに至るまで、時間はかからなかった。いくら否定したところで、"元の世界"に戻れる方法は今のところわからないのだ。それならば、早く開き直って生きる手立てを探す方がいい。その為には、彼らの力が必要だった。
 だが、自身で言っておいて再び視界が歪んだのを感じた。隣を歩いていたティアがそっとあやす様に肩に手を置いた。

 「やはり…。」
 「おや、イオン様もそう思われていたのですか?」
 「…だろうな。どう見たってキミ、出で立ちに違和感があるんだもんな。」
 「…はい。しかし…、」

 言いよどむイオンに代わってそれで、と興味なさそうにルーク・フォン・ファブレが続きを促した。
 早くバチカルへ帰りたい彼にとって、整備隊長を助けにコーラル城へ行くのも億劫なのにさらにこうして厄介ごとが増えた事で、機嫌は最高に悪そうだ。ガイがまぁ、と宥めて視線をに向けた。
 としては、意味深な言葉を呟いたイオンに続きを尋ねたかったが、再び集まった視線に制されて口を開くしかなかった。

 「私自身、どうしてここにいるのか解りません。ただ、呼ばれた気がしました。」

 イオンがはっとした表情をつくった。ジェイドはそれを見てくいと眼鏡を上げる。

 「"呼ばれた"、ですか。誰に?」
 「…ごめんなさい、解らないんです。電源を落とそうと機械に手を伸ばした時、身体中を電流が這って、気がついたら此処に…。気を失う前、声を聞きました。それに呼ばれたんだと思います。"鍵"がどうとか…、それしか覚えてなくて。」

 鍵、と聞いてルーク以外の全員が顔を見合わせた。すっかり蚊帳の外にされたルークの機嫌がますます悪くなる。
 ふてくされたルークの表情を見て、は元の世界の幼馴染を思い出した。無意識の内に凝然とルークを見ていたのだろう。

 「なんだよ、じろじろ人の顔見やがって。」
 「え、あ、ごめんなさいルーク…さん。」

 全員がはっとしてを見据えた。

 「ど、どうして俺の名前…。」

 呼ばれたルークが驚いた表情をした。名乗っていないのに、と呟いた声が聞こえ、は漸く自身の失態に気がついた。慌てて口元を覆っても後の祭り。

 「え?!え?!今のどういうこと?!どうしてさんルーク様の名前知ってるのぉ?!」
 「是非お答え願いたいですねぇ。…先程からどうも彼女に隠し事があるように感じていましたが…。」

 にこりと微笑んだジェイドの笑みがこの時だけは恐怖だった。
 は経緯を語った。

 

 

*

 

 

 「…なるほど、そういうことですか。では、あなたは最初から我々が何者か知っていた…ということですね。何か未だ隠していそうな感じが否めませんが、」

 ジェイドに見据えられては苦笑するしかなかった。さすが軍人、と賞賛したいほどの感の鋭さ。確かには一つだけ嘘を吐いた。この世界の事を"本"の中の世界にしたのだ。

 「アニスちゃんびっくり〜!そんなことって本当にあるんだねっ!」
 「そう…ですね。彼女が読んだ場面と言うのは実際私達が歩んできた道程と一緒だし、これから向かうコーラル城の事も…。」
 「それにしてもその本はやたら詳しく書かれているんだな。俺達の小言のこともほぼ一緒のことが書いてあるなんて。」
 「ミュウの事も知ってたですの!嬉しいですの!!」
 「じゃあお前、この先何があるのか知ってるのか?」
 「ごめんなさい、解りません。私はここまでしか読んでなくて…まさかその続きを一緒に体験するなんて夢にも思わなかったものですから。」

 アニスは表情を輝かせて言うと、ティアも頷いた。ひとまずは納得したがジェイドと同じように未だ少し警戒心を見せるガイ。ミュウは純粋に嬉しいのだろう。(本当にしゃべっているのを目の当たりにして、はあまりの可愛さに意識が飛びそうになったのを明記しておく。)未来を知りたがったルークには申し訳ないが、は本当に此処までしか知らない。…ある程度のあらすじなら知っているが…それを言えば、この世界の何かが変わってしまう恐れがあり、は不用意な発言が出来なかった。

 「イオン様、先程から深刻な顔をなされてますが、どうかしましたか?」
 「あ、いえ…。気にしないで下さい。」

 イオンの様子も気になるが、とりあえず、自身の状況を受け入れて貰えたという事に胸を撫で下ろした。
 とにかく、どこかの街に辿り着かないことには身の振る舞いが定まらないので、彼らと共にコーラル城に急いだ。

 

 

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*20060125*
*加筆訂正 20060129*

 

 

 

 

 

 

アトガキ。

ブログを見て下さっている方はもうご存知かと思いますが、えりゅはティアが好きくありません。
嫌い…とまではいかないのですが。ねぇ?
好き嫌いなキャラによって絡む度合いも変わってきますんで(笑)

加筆訂正致しました。
よくよく考えてみれば、野宿なんかしていたらアリエッタ、整備隊長共に待ちくたびれちゃいますよね(笑
(060129)