REGINLEIF
はコクピットの中で胸の前で手を握り合わせたまま前を見つめた。時折入る状況説明に眉を寄せる。―――敵艦に動きが無いのはおかしい。インパルスはボギーワンまで距離1400の所まできているというのに。ははっとして艦橋に音声のみの回線を開いた。 「デコイです!」 と青年の声が重なった。―――この声はアスランだ!はなぜ彼が艦橋にいるのかは知らないが、向こうからの返答を待たずに回線を切った。アスランがいるならこの艦は大丈夫だ。もちろん、アスランがいなくても艦長のを信頼しているし、この艦は自分が沈ませない!ドッグにいる整備士達にフォルセティから離れるように指示した。 『待て、何を!』 エイブスの焦った声を抑えて、はカタパルトへ動く。レイにも後に続くように指示した。がいつでも発進できる準備を整えたとき、艦が大きく揺れた。カタパルトは閉じているし、回線を開いても外の状況はわからない。エイブスから伝えられる断片的な情報には嫌な予感を覚えた。今は小惑星を盾にして攻撃を回避しているとか…。 『、発進許可が出た!しかし、カタパルトが通常通り開けない、歩いての発進になる。』 はレバーを握りなおし、機体を発進させた。 「右舷のスラスターをふかすのと同時に、右舷に攻撃しその爆風で艦体を押し出せば…。」 果たして、この考えはグラディス艦長に浮かぶだろうか。何しろ、ミネルバの艦体にも多少の被害が出る。いや、艦長じゃなくてもアスランが進言してくれれば…。そこで、は思考を止めた。目の前に現れた敵モビルスーツにライフルを照準し、トリガーを引いた。 『フォルセティ―――レギンレイヴじゃないか。これはこれは…。』 敵アビルアーマーから放たれる攻撃をかわしながら、は回線の声にはっとした。―――そんなバカな!だが、回線から聞こえてくる楽しそうなこの声音は彼のものだ。 「誰よ、あなた!」 返答ある訳が無いが言わずにはいられない。ライフルを照準して、敵のガンバレルを一つ打ち落とした。悔しそうに舌打ちしたのが無線越しに聞こえてはニヤリとした。 『くそっ!よもやあの状況から生き返るとは!』 反転したモビルアーマーを追いかけてはスラスターを思いっきり踏み込んだ。ミネルバを攻撃しようとしたモビルアーマーをレイが阻止する。モビルアーマーは再び反転した。―――ボギーワンから帰還信号が打たれた。 機体が収容され、はコクピットから飛び出た。パイロットスーツの下は汗でびっしょりだ。更衣室に戻りパイロットスーツを脱ぎ捨て簡易シャワー室に逃げ込むように入ると、蛇口を一気に捻って頭から水をかぶった。 「みんなお疲れ様。」 がねぎらいの声を掛けるとシンが笑みを浮かべた。 「ってすごいな!」 とっぴょうしもなくシンが話し始めたのでが首を捻るとルナマリアがその補足をした。はああ、と頷く。デブリ帯での戦闘は地理を生かした戦いをする。が言った事は当然の事だったが、『が言った事』だったからなのか、シンはすごい、を連続した。 「敵は…落とせなかったけど。」 沈んだ声を出したシンを勇気付けるようにはなるべく明るく声を出したが、これからの事を考えると気落ちした。レイもに頷く。―――本当にこれからどうなるんだろう。 「アスラン・ザラ…あいつが…?」 シンがいぶかしげに呟いた。 「みんなは休憩室に行くのでしょう?だったら、私はいったんここで別れるわね。」 今にも泣きそうな声では無理やり笑顔を作った。あっ、とメイリンから声が漏れる。 「、俺も、」 シンの申し出を断っては四人とは逆方向に歩いていった。今は少しだけ一人でいたい。考えることが沢山あった。今回の新型機奪取の犯人、今後の世界情勢、突然の実戦に戸惑いを隠せない新人兵士達の事や、同船しているというカガリと、そして何より―――。 「どうして、プラントに…。どうして議長と対面するのよ、アスラン―――。」 なぜか無性に泣きたくなって、涙がこぼれた。廊下に粒状になった水滴が浮遊した。
類は友を呼ぶ、という言葉をはこんなにも腹立たしいと思ったことは無かった。考えることがまた一つ増えてしまった。 「ユニウスセブンが動いてるんです!」 は声を上げてメイリンを穴が開いてしまうのではないかと思う位凝視した。――ユニウスセブンは百年の単位で安定起動にあるはずだ!それがどうしてまた…。めったにお目にかかれないの姿にその場にいたクルーたちはギョッとした。中には俺のが…、などとよく判らない言葉を発しているクルーがいる。 「、落ち着いて。」 ルナマリアはフリーズしたかのように突っ立っているの目の前で手をひらひらさせて席を勧めた。 「けど、なんでまた…?」 ヴィーノがの疑問を口にしてくれた。当然考えられる原因をヨウランが述べる。シンが疑問を口にすると、一番真っ先にこの事件を知ったメイリンが頷いた。はルナマリアの右となりで手を組んでいた。―――ユニウスセブンが地球へ落ちる様な事になれば、ラクスは…、オーブは…、地球の人達は…。一つ嫌な事を考えてしまうと、次々に悪いことしか浮かばない。 「大丈夫ですか?顔が真っ青よ。」 そうは言ってみるものの、みんな心配そうにを見ていた。はユニウスセブンで両親を亡くした事を言っていないし、言うつもりもない。同情なんて欲しくないからだ。 「アーモリーでは強奪事件。それも片付いてないのに、今度はユニウスセブン。一体どうなっちゃってるのよ。…で?今度はそのユニウスセブンをどうすれば言い訳?」 ルナマリアはヨウラン、ヴィーノの順に見る。二人ともどうすればいいのかわからず、俺に聞くなよと顔に書いてルナマリアの視線から逃げた。はぎゅっと口を結んだ。あれだけの質量を持った物だ。簡単に軌道修正できるものではないだろう。しかし、このままの状態で放置すれば地球に衝突する。その被害を考えるとぞっとした。――では、それらが無理なのであれば…。 「「砕くしかない。」」 とレイの言葉が重なった。 「砕くったって、あれを?!」 ヴィーノが目を見開いてとレイを交互に見た。は俯いているので表情がわからない。ヴィーノはレイに目線で説明を求めた。 「軌道変更など不可能だ。衝突を回避したいのであれば、砕くしかない。」 ヨウラン、ヴィーノはお手上げと言わんばかりの口調だ。メイリンは砕くと聞いて、遺族の人を思い浮かべたのだろう。はぎゅっと手に力を入れた。―――今、泣いてはだめだ!感づかれてはだめだ!自分に強く言い聞かせたが、砕きたくないという自分が容赦なく泣き叫んでいる。 「だが、衝突すれば地球は壊滅する。そうなればそこに生きている物、在る物、何も残らない。」 ははっと顔を上げた。――砕きたくないけれど、砕かなければ地球は、ラクスは…!以前、死者の名誉より、生者の恥を。そういったのは誰だった?自分ではなかったか!は少しでも迷った自分を責めた。 「けど?なによ。」 なんて事を言うの!と続けようとしたの言葉を遮って同じような怒声が入り込んできた。――カガリだ。一瞬の事に、みんなびっくりして立ち上がり敬礼した。シンだけはしなかった。はシンを横目で見て小さく息を吐いた。 「この事態がどういう事か、地球がどうなるか、どれだけの人間が死ぬのか!それを本当に判って言ってるのか?!」 カガリに言われて、は心臓を鷲掴みにされた気がした。自然と下落ちていた視線をカガリに向ける。その時、ようやくの存在に気づいたカガリが息を呑んだ。 「…?!お前、なんで!――変わったんじゃなかったのか?!」 アスランが静かにカガリをたしなめた。カガリはがどうしてここにいるかを問い詰めたかったが、今にも泣き出しそうに、苦しそうな表情をしているにもう一度怒声を浴びせる気になれなかった。 「…別にヨウランも本気で言ったわけじゃないさ。そんなことも、わからないのか?アンタは。」 たしなめたレイにそうでした、と頷いてシンはカガリを挑発するように呟いた。 「この人、偉いんでした。オーブの代表でしたもんね。」 アスランはカガリの一歩前に出て、シンを睨んだ。すると、シンの前にが立ちアスランと向かい合う形となった。思いもしなかった事に、アスラン、シンも目を丸くする。 「申し訳ございません、アスハ代表。後で言い聞かせておきますのでここはどうかお怒りを静めてくれませんか?――アレックスさん、アスハ代表を部屋までお連れ願います。」 パン、と乾いた音がブリーフィングルームに響いた。――がシンの頬を叩いたのだ。みんなびっくりしてその光景を凝然と見ている。シンは叩かれた場所に手を当てて目を丸くしてを見ていた。――家族を亡くした事をそれとなく話した事があった。だから、は気持ちを判ってくれていると信じてたのに! 「"この国の正義を貫く"って、アイツはそういったんだ!あの時、その言葉で誰が死ぬ事になるのかちゃんと考えもしなかっただろうに!何も解ってない様な奴に、解った様な事言われなくない!」 シンはとカガリを順に睨み、ブリーフィングルームから飛び出した。はその場所で拳を握り締めた。シンの気持ちは痛いほど解るし、あの大戦をカガリと共に戦ってきたから、カガリの憤りも解る。
*20060531 加筆訂正*
|