WIND

 

 

 

 ナルト、サスケ、、サクラの四人はいつもの様に指定された場所でカカシを待っていた。相変わらずカカシは指定した時間に来ないので、いっその事も遅れて来ようかと思ったがそれは真面目に集合しているナルト達に悪いと思い、待ち合わせ時間より五分早めに来て本を広げた。
 『歴代火影〜火影とはこんな人!〜』と表紙に書かれた本を、ゆっくりとだが確実にめくっていく。ナルトとサクラが騒いでいる隣でサスケがイライラしながら橋の手すりに靠れた。そんな三人に関心を示さず黙々と本を読むに、サスケはこっそりと視線を送った。
 は本を読みながら時々、くすくすと笑った。
 初代とは何度か面識があり、話した事がある。彼はジロウの一番中のいい友人だと聞いていた。二代目も、初代目に付き合って水堂に来た事があるから、は二代目も知っている。実際に話す事はあまりなかったが、すれ違えば挨拶くらいはした。三代目は幼馴染だ。猿飛の事はよく知っていると思う。そして、四代目。彼はが眠りに付いている間に生まれ、そして亡くなった人だ。そのため彼の素性は本からのみしか情報を得られない。会ってみたかった、と思う。
 最後のページに火影達の顔写真が載せられていて、がそれをみた時、四代目はなんとなく、ナルトに似ていると思った。金色の髪に、蒼い瞳だったから、そう思ったのかもしれない。

 「やー、諸君。おまたせ。今日は人生と言う道に迷ってな、」
 「「はいっ、うそっ!!」」

 ナルトとサクラがずびしっ、とカカシを指差した。待ち人がようやく来て、は本をポシェットに戻した。

 「あー、まぁ、今日は任務じゃないんだ。―――がっかりするなよ、ナルト。その代わりお前達が喜びそうな話を持ってきた。お前達、四人を中忍選抜試験に推薦した!」
 「なっ、何言ってるんですか!」
 「そうだってばよ!そんな事言われても信じ―――」
 「はい、これが志願書だ。」
 「―――カカシ先生っ、大好きーっ!!」

 えーっ、と口を尖らせたナルトは、志願書を見せられて態度を一変させカカシに抱きついた。はその様子を見つめ、そのをサスケが見据え、そのサスケをサクラが見つめていた。こっそりとサクラは息を吐く。サスケの視線の先にはいつも、が居る。
 カカシは一人ずつ志願書を手渡し明日の午後四時までに忍者学校の三○一に提出するように、と言うとそそくさと帰ってしまった。あの、待たされた時間はなんだったのだろう。でも、本を一冊読むことが出来たから良いか、とは前向きに考えた。
 はさっさとその志願書を四つ折りにするとポシェットに直す。ナルト、サスケの二人は興奮した様子で志願書を見つめた後、無造作に直した。サクラはじっと志願書を見つめて、眉間にしわをい寄せた。――ナルト以下と言われたのに、三人についていく自信がない。
 はそんなサクラを見て口を開きかけたが、結局、何もいわずに閉じた。中忍選抜試験は三人一組。各個人、自分の意思で志願書を届出、受験に臨まなければいけない。生半可な気持ちでは簡単に落とされるし、最悪、命を落とす事も有る。がいくら慰めを言ったところで、サクラが自身が解決しなければならない気持ちの問題だ。
 それじゃあ、また明日ね!と少し大きめの声でナルト、サスケ、サクラの注意を自分に向けわざとらしいくらいの明るい笑顔を浮かべて三人と別れた。――三人一組の受験体制。あとの二人をどうしよう、と空を仰いだ。

 翌日の午後、は忍者学校の前でナルト、サスケ、サクラと合流した。サクラの表情は冴えず、まだ悩んでいるようだ。サスケはサクラの様子に気づきながらも何も言わずに行こう、とナルト、、サクラを促して一番に忍者学校の門をくぐった。
 は門をくぐって直ぐに違和感を覚えた。それが直ぐに受験者を振るいにかけるための簡単な幻術と気づき、小さく笑みを漏らす。階段を上って、昨日カカシに指定された三○一の教室の前に到着した時、サスケとサクラも幻術に気づいたようだ。

 「お、お願いですから、そこを通してください。―――きゃあっ!」
 「――ふるいに掛けて何が悪い?!俺たちでさえなかなか合格できない試験だというのに俺たちよりも弱いお前等が合格するわけがない!」
 「―――それでも、俺はそこを通してもらおう。三○一の教室に用があるのでな。」

 何を言ってるんだ、と他の受験者から声が上がったが、はそっちの方が何を言ってるんだ!と声を上げそうになるのをこらえた。――おかしい、どうしてこんなにムカムカするんだろう。気持ちを落ち着けるようにはお腹のあたりを軽くさすった。そうすれば高ぶった感情が和らぐと、教えてくれたのは養父のザイチだ。

 「サクラ!お前はとっくに気が付いてるんじゃないのか?この班の中でお前の分析力と幻術のノウハウは一番だからな。」
 「!」

 サクラははっと顔を上げて不敵に笑みを浮かべた。

 「――そうね、私は三階に用が有るの。此処は二階じゃない!」
 「よく解ったな。でも、見破っただけじゃあ、なっ!」
 「!」

 幻術の掛けられた扉の前にいた二人のうち、背にクナイを背負った少年が蹴り上げてきた。それに素早く反応し、サスケも同じように足を上げる。その間へ何かがよぎったかと思うと、先ほど、クナイを背負った少年とは別の少年に殴られた、見覚えのある忍服を纏う少年が二人の足を素手で受け止めていた。
 あ、とは言いかけた口をぱちんと手で閉じた。ガイ自慢の愛弟子だ…。

 「おい、目立ちたくないと言ったのはお前じゃなかったのか?」
 「ええ、でも…。」
 「やれやれ。」

 全てを見透かすような瞳を持った長髪の少年が先ほどサスケとクナイを背負った少年の間に割り込んだ彼に言うと、彼はの隣、サクラを見てぽっ、と頬を染めた。それを見たおだんご頭の少女が肩をすくめて首を左右に振る。
 彼はつかつかとサクラに寄って来て言った。

 「僕はロック・リーといいます。あなたはサクラさんですよね。僕とお付き合いしてください!死ぬまであなたを守ります!」
 「絶対イヤ…。」

 だって眉毛濃いし、と呟いたサクラの言葉に、も心の中で大きく頷いた。いくら自慢の愛弟子でもさすがに眉毛までは真似させたくない。
 リーはがくりと肩を落としたがすぐに立ち直ったようだった。サクラからに視線を移し、上から下までじっくり見られて、リーはあなたが、と呟いた。

 「さんってあなたのことですよね。先生がよくあなたの事をぼやいていました。先生によるとあなたの体術はガイ先生に引けをとらないとか…是非僕達の班に入れたかった、とか。」
 「え…、あぁ、本当に?」
 「三人一組を四人一組にまでしてどうしてあなたをその班に入れたのでしょうね。」

 何を吹き込んでるんだ、あの青春バカっ!とは引きつり笑いを浮かべて内心ハラハラしていた。あごに手を添え、首を捻るリーは少し可愛いかもしれない。再び、リーがあっ、と声を上げた。

 「重要な事を思い出しました!この中忍選抜試験は三人一組なんですよ!四人一組は無理なはずです。――どうするんですか?」
 「その事なら問題ない。」
 「あなたたち、さっきの!」

 サクラが声を上げると、リーの後ろから、先ほど幻術を掛けていた二人組みが立っていた。

 「俺ははがねコテツ。こっちは神月イズモだ。さっきは悪かったな。でも、俺たちが言った事は嘘じゃない。――あぁ、それで話を戻すけど。俺たち実は二人だったんだ。あぶれた奴を仲間にしようと思っててな、そこが四人なら都合が良い。誰か一人来てくれると探す手間が省けるんだけど。」
 「あ、だったら私が。―――だって、ナルトはサクラと一緒がいいでしょ?サクラはサスケと一緒が良いだろうし…そしたら必然と私があぶれるわけよね。」

 えーっ、とナルトが声をあげたががもっともな事を言うと、頬を少し染めて視線を泳がせた。

 「…って事で、いいかしら?私はよ。よろしくね、コテツ、イズモ。」
 「あぁ、よろしく。んじゃ早速だけど、志願書提出に行こうか。確か午後四時までだったな。」
 「――それじゃぁ私は行くね。チームは違うけど、お互いがんばろうね!」

 はナルト、サクラに手を振り、戻ってきたサスケとすれ違いさまに笑みを浮かべて三人から離れていった。

 「第一関門はクリアってところだな。彼らがカカシとガイの秘蔵っ子って訳だ?」
 「ガイの教え子に会うのは初めてなんだけど、いい子達ね。もちろんカカシ第七班もいい子揃いよ?度々問題はあるけど。」
 「、お前まためんどくさい任務引き受けたんだな。ガキの守なんてさ。」

 イズモが心底嫌そうに言うものだからは苦笑してそんなことないよ、と否定した。

 「Aとかの長期国外任務とかよりもよっぽどいいわよ?『子守』ってのも。」
 「それはそうだけど、俺は遠慮したいな。―――今回の中忍選抜試験監督員になったのも、上司のイビキさんが担当試験管じゃなかったら引き受けてなかったし…。」
 「えっ?!今回の試験管の中に『あの』森乃イビキがいるの?!」

 うわー、とが嫌そうにいうとコテツとイズモは顔を見合わせて苦笑した。
 二人の上司にあたる森乃イビキは木の葉隠れの里、拷問・尋問特殊部隊の隊長であり、その道にかけては右に出るものはいないほどの精神的苦痛を与える事に長けたエキスパートだ。――もちろん、普段からというわけでもないが、周りからは畏怖されている。

 「第一の試験はイビキさんが担当してるんだ。――うっかり落とされるなよ?」
 「うぅ…、肝に銘じときます。」
 「イビキさん、結構気さくな人なんだけどな、やっぱりも苦手か?」
 「仕事の時の彼は、ね。そりゃあ仕事外の時はいい人よ。紳士的だし、それに…、」
 「「それに?」」
 「…えへっ、秘密ー。」
 「もったいぶるなよ、!」
 「ま、中忍試験が無事に終わったら教えてあげる!」

 三人は緊張した受験生らしからぬ和気藹々と三○一の教室をくぐった。
 教室内にはすでに受験生達が集まっていて、後ろのドアを睨み付ける様に視線を投げていた。コテツ、イズモ、の三人はそれにひるむことなく前の方の席に移動した。

 「俺達はイビキさん達に合流するけど、は受験生としてテストを受けてくれ。」
 「解ったわ。――下忍といっても勘の鋭い奴もいるはずよ、気をつけてね。」

 コテツとイズモは破顔して頷いた。
 後方が少しにぎやかになり、受験生達の意識が後方に向けられると二人は今が絶好の機会と言わんばかりに気配を殺して前方の扉の向こうへ姿を消した。はそれを横目で見送ってから意識を後方に向けた。見覚えのある金色の髪に目立つオレンジ色の忍服――ナルトだ。サスケ、サクラの他に今年忍者学校を卒業した六人と、長身の眼鏡を掛けた少年が一人居る。―――あの人は!

 「あっ、。」

 サクラがに気付き声をかけると、は苦笑しながら新人下忍の輪に入った。

 「あ、お前忍者学校卒業式の日に居た…、」
 「――確か、だったわね。」
 「初めまして、かな。―――それよりも。皆、キャッキャッって騒いで…。ここには遠足に来てるんじゃないよ?」

 頭に犬を乗っけた少年に続き、サスケの隣でサクラと睨み合っていた少女がに向かって言うと、は簡単に自己紹介をした後、注意した。新人下忍達は苦笑を浮かべる。少年も同じ様に苦笑してみせ薬師カブトだ、と名乗った。

 「え…"薬師"?」
 「そうだけど、何か?…あの時は君のおかげで助かったよ、ありがとう。」
 「――いえ、お気になさらず。あなた、木の葉の忍だったんですね。」

 薬師という苗字には思わず反応してしまったが、すぐに何でもないという様子を装って差し出された手を軽く握り挨拶を交わした。カブトはにやり、と笑みを浮かべただけで、他の新人下忍達に向き直った。サクラがの傍に寄り、耳元で知り合い?と囁いたのではちょっとね、と曖昧に返事した。
 カブトは懐から数十枚のカードを取り出した。

 「これは認識札。情報をチャクラで記号化して焼き付けているんだ。僕は四年掛けてこれを制作した。――見た目は真っ白なこのカードだけど…僕のチャクラを用いる事で――このとおり、今回の中忍試験の総受験者数と総参加国のグラフが見れる。」
 「…。それで個人情報とかもみれるのか?」
 「気になる奴でもいるのかい?――もちろん、完璧な情報ではないけれど、気になる奴とやらの情報を何でも言ってみな。検索してあげるよ。」
 「砂隠れの我愛羅。それに木の葉のロック・リーと…だ。」
 「ちょ、サスケ君?!」

 はぎょっとしてサスケを見た。それは周りも同じで、とサスケの顔を交互に見ている。
 カブトはそんな新人達を気にもせず、なんだ名前がわかってるなら早い、と数十枚のカードの山から三枚枚を引き出した。自身のチャクラを練り上げると、札からグラフなどが現れ、真っ白だった札の上にはぎっしりと個人の能力などが書かれている。サスケを始めみんな食い入るようにデータを眺めた。

 「まずは我愛羅。他国の忍という事で情報が少ないんだけど…、それにしても下忍でAランク任務か、すごいな。――次に木の葉のロック・リー。この一年で体術が伸びてるな。他はてんで駄目みたいだけど。…最後に。彼女のは――。」

 表示されたデータを見て、眼を疑ったのはだけでなく、サスケもだった。
 Aランク任務1回、Bランク任務0回、Cランク任務1回、Dランク任務7回。上忍師はカカシの名、班員にはナルト、サスケ、サクラの名が書かれ、任務内容はナルト達とまったく一緒だ。

 「なんだ、サスケ君が気にしてたからどんな子かと思えば大したことないじゃーん。」

 サクラの隣にいた髪の長い女の子が言う。それに同意するように犬を連れた男の子が頷き、他の子も態度に出さないだけで心の中ではそう思っているのかもしれない。カブトはにウィンクで目配せして、認識札を見せながら中忍試験について最後に一言付け足した。

 「――と、まぁデータはこうなっているけど、みんな、各国から選りすぐられた下忍の中でもトップエリート達。そんなに甘いもんじゃないですよ、中忍選抜試験は。」

 脅すように言うと、新人下忍達はいっせいに生唾を飲んだ。それを見て、カブトは言い過ぎたかなと、小さく息を吐いてフォローしようと口を開きかけたその時、ナルトは教室中に響き渡る声で叫んだ。

 「俺の名はうずまきナルトだっ!てめーらには負けねぇぞっ!!」

 新人下忍者達はいっせいに目を丸くし、他の受験生達はいっせいにギロリとナルト達を睨みつけた。
 あほーっ!とサクラはすかさずナルトの後頭部に拳骨を落とす。そのとき、受験生の中で三つの足音が動いた。は軽く身構えた。カブトも気付いているようだ。
 突如、空中に男が現れクナイを投げる。カブトは軽くかわすが、相手の方が一歩上でかわした先に別の男が拳を振り上げてきた。カブトはそれもかわす。しかし、眼鏡にヒビが入り、割れてしまった。

 「!」

 は思わず耳をふさいだ。キーンと甲高い音が軽い頭痛とめまいを引き起こす。が地面に崩れると日向家の少女がを支え、大丈夫?と声をかけた。同時にカブトも地面に崩れ、嘔吐する。

 「か、カブトさん!大丈夫?!」
 「ちゃんも、カブトのにーちゃんもなんでぇ?!」
 「なんだ、大したことないね。四年も受験してる大ベテランのくせして…。お前の札に付け足しときな!"音隠れ"三名中忍確実、ってなよ。」
 「静かにしやがれドグサレヤローどもっ!」

 怒声と共に煙が教室前方であがり、その中から姿を現したのは、変化を解いて子供の姿から元の姿に戻ったコテツとイズモ、そして第一の試験監督である森乃イビキ率いる尋問・拷問部隊だった。

 

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*20070320*