WIND
頭を抱えるナルトを見て、はこっそりと笑みを零した。 「試験用紙はまだ裏のままにしておけ。これから大事なルールを説明する。黒板に書いて説明してやるが、質問は一切受け付けんからそのつもりでよく聞け!」 イビキは黒板に四つのルールと簡単な例を書き出した。 「試験時間は六十分。―――始めっ!」 その号令に、受験者達はいっせいに紙をめくり、問題を解き始めた。 「(なるほど、受験者達の情報収集能力をみるテストなわけね…。)」 は問題をそっちのけにして受験者達の観察を始めた。さしずめ、受験者に紛れ込んだ試験官といったところだろうか。そこへ、ちゃん、と声がかかった。 「ちゃん。」 小さな声で名前を呼ばれて見れば、そこには一時間ほど前出会った砂隠れの里からの受験者であるがえへー、と満面の笑みで手をひらひらさせていた。 「ちゃん、ひどいなぁ。さっきから何度も声掛けてるのに一向に気付いてくれないんだもん。試験始まっちゃうし。」 はこそこそと話しかけてくるに同じ様にこそこそと返事を返す。すると、からこの試験本当の目的である回答が飛び出した。 「あ、これってばらしちゃいけなかったんだ…。」 私ですら今回の試験の事を知ったのはついさっきなのに、と心の中で呟き、は訝しげにを見据えると、はいよいよ焦ってせわしなく視線を泳がせた。 「―――っ、ま、まぁ…いいじゃん!カンニング公認なんだし、忍なら忍らしくカンニングすればいいだけの事なんだよ。」 は強引に話を切り上げ、解答用紙に向き合った。 「(たいした度胸ね、こんな中で眠れるというのも。それにしてもこの子と姉は要注意ね…。巫女姫が目覚めているという事、選抜試験の内容の事――SSランク並の情報を入手している経路は一体…?)」 はそこで考えるのを止め、すっかり埋めてしまった解答用紙を裏返してに倣って瞳を閉じた。
目の前に、燃え盛る屋敷。広大な敷地を誇るこの敷地は災害にあったときでもびくともしなかったのに、今は全てを焼き尽くす炎が踊り狂っている。 「あっはっはっは!――あら、生き残り?おかしいわね。全て殺したと思っていたけれど。」 男はを見てそう言い放った。その瞬間、は怒りに叫び、一匹の狼を口寄せした。 気が付けば、は三代目火影・猿飛に抱きしめられていて、猿飛は涙を流しながらごめん、と何度も謝っていた。普段はおどけて言う「すまぬ」という謝罪の言葉が、昔よく使っていた「ごめん」という言葉に戻っている事には浮遊感を覚えながら、聞き入った。白濁とする意識の中、身をよじって辺りの景色を視界に入れた瞬間、猿飛の謝罪の意味が解った。 「…私、どうなるの?殺される?木の葉にとって脅威だものね。」 遠くを見つめながら、はそれもいいな、と漠然と呟いた。の小さな体に封じ込められた半世紀程前里を襲った妖狼が、木の葉三強の一つ、家の広大な敷地を一瞬にして更地に変えてしまったのだ。猿飛ははっと顔を上げての顔を覗き込む。 「な…何を言うておる?そんな事はせぬ。住む家がないのならば、ワシの家で住めば良い。のう?」 はそっと猿飛から体を離した。少し離れて火影を囲う様に控えている忍の他に、暗部が一小隊身を潜めて様子を伺っている。 「!何をするつもりじゃっ!」 は姿を消していた狼を再び口寄せした。ジロウ、と狼を見て呼ぶ。かつて妖狼をに封印したジロウの名を、は妖狼に名づけていた。 「ジロウ。私が死んだらあなたは自由ね。どこへでもお行き。ただし、木の葉に手を出したら私が地獄からあなたを封印するわ。」 ジロウと名づけられた狼はぼふん、と音を立てて巨大化した。その瞳には薄っすらと涙が滲んでいる。ジロウの鋭い爪はの左胸を、鋭い牙はの首筋にと宛がわれ、一度力を加えると死んでもおかしくない状況だった。 「何をしておる!を止めぬか!!」 一人の忍が張り合げた声に、はそれはだめっ!と反論した。 「だめっ、子供は殺さないで!あの子は…あの子は殺しちゃだめっ!あの子はこの里を守って死んでしまった四代目火影とやらの子供なんでしょ?親子で里を守ったのに、そんな理由で殺してしまうなんて絶対にだめ!!」 の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。 「―――火影命令じゃ、この手を離しを止めよ。あやつを失ってはならぬ。」 の背後に狗面をつけた暗部が回りこみ、手刀でトンと首を打つとは意識を手放した。ジロウはから離れほぅ、と息を吐いて猿飛を見据えた。 『礼は言わぬ。』 狗面をつけた暗部はを横抱きにして火影の隣に並び指示を待った。ジロウはぼふんっ、と音を立てて姿を消し、残ったのは更地になってしまった旧邸と、火影と暗部一小隊だ。 「行くか、カカシよ。はしばらく休息が必要じゃ…。もちろん、皆もな。」 火影様、と狗面は名前を呼ばれた事を諫めたが、幸い他の暗部には聞こえていなかった。聞こえているとすると狗面――カカシの腕の中にいるくらいのものだが、聞こえているはずがなかった。
「―――なめんじゃねぇっ!俺は逃げねーぞっ!!」 バンッと机を叩く音で、は目を覚ました。時間を確認すると、十問目の出題時間を過ぎ、試験終了まで後五分といったところだった。 「一生下忍のままだって、意地でも火影になってやるからっ!怖くなんてねぇってばっ!!」 ナルトの声が教室中に響き、勇気付けられた表情の受験者達がいた。イビキは周りの試験官達と目配せし、頷き合うと第一の試験合格を言い渡した。 「あんた達喜んでる場合じゃないわよ?!私は第二試験官のみたらしアンコ!次行くわよっ、次ィ!!」 二人のやり取りにはぷっと噴出したが、なんとか笑いを堪えた。アンコは第二試験を行う場所の説明をし始めたので、集中して話を聞いていると夢を見ていた事などすっかり頭からなくなった。
*20070509*
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