WIND

 

 

 

 波の国から帰国し、一日休みの翌日から、カカシ第七班は再びDランクの任務に戻った。
 満面の笑顔で任務をこなすのはだけで、ナルト、サスケ、サクラはだるそうに与えられた仕事をこなしていた。
 時折、サスケがに対して視線を送るのをサクラは不満げに見つめていた。そして、サスケの視線の先にいるを同じように見つめる。――。あの一族の生き残りで、忍としての技術はサスケ並かそれ以上。忍者学校卒業試験当日に突然現れた不思議な女の子。…そして、私のライバル!
 サクラはに対し闘志を燃やした。

 「草野さん家の赤ちゃん――あ、名前は麟太郎(りんたろう)君っていうんだけどね、とても可愛いの!私の事『ねーたん』って呼ぶのよ?あのぷっくり頬の麟太郎君に『ねーたん』…もう、一生ベビーシッターしてもいいかも…。」
 「ちゃん…その話もう耳にタコだってばよ。」

 ナルトはうんざりしながらの話に相槌を打った。
 波の国から帰国してからというもの、あの壮絶な戦いを体験してからか、ナルト、サスケはよく強くなりたいと零すようになった。それに反するかのようには平穏な暮らしがいかに良いのか説くように同じ内容の話をし続けるので、ナルト、サスケ、サクラは若干うざったそうな表情をする。そんな班員達の様子をみて、カカシははぁ、と溜息を吐いた。
 そんな数日を過ごしたある日、任務を終え、ボロボロのナルトをサクラが支え、サスケ、、カカシと横に並んで歩いていると、見覚えのある鳥があの泣き声で空を横切った。とカカシはそれを横目で見る。

 「…ほんと、手のかかるヤツだな。」
 「くっそー!サスケめっ!」
 「これ以上暴れたら、一発殴るわよっ!」
 「ふー…、最近チームワークが乱れてるなぁ…。」

 カカシが息を付いて零すと、ナルトはサスケを指差してチームワークを乱してるのはアイツだ!と言った。

 「それはお前だ、ウスラトンカチ!そんなに俺に負けたくないのなら、俺より強くなればいいだけだろ!」

 ははぁ、と息を吐いた。結局、の言いたかった事はサスケには上手く伝わっていなかったのか、と肩を落とす。

 「まぁ…とりあえず、今日は解散しよう。俺は今から任務の報告書を提出しないといけないしな。――、どうする?」
 「あ、じゃあ、私も一緒に火影邸へ。」
 「なら、俺は帰るぜ。」
 「ま、待ってサスケ君!これから二人でチームワークを深めるってのは…?」
 「…お前もナルトと一緒だな!俺にかまってる暇があったら術の一つでも練習したらどうだ?はっきり言って、お前の実力はナルト以下だぞ。」

 サスケはそういうと踵を返し、さっさと家に帰ってしまった。カカシとは何も言わずに瞬身の術でその場所を離れた。火影邸の近くで姿を現し、二人は歩いて屋敷に向かう。

 「もう中忍選抜試験の時期なのね。カカシ…どうするの?今の状態のままで三人を試験に推薦するつもり?」
 「もちろんだ。ナルト、サスケは強い奴等と戦いたがってるからな。」
 「だからって…、――――!私、戻るね。」
 「どうした、急に。」

 理由はまた後で、とは先ほど解散した場所へ急いで戻った。
 そこでは、砂の額当てを付けた忍が三人いた。顔に模様を描いた少年が、木ノ葉丸を締め上げている。

 「ちょっと、君!その手を離してくれない?」
 「う…、姉ちゃん…!」
 「えっ?""?!」

 の名前に少年の傍にいたナルト、サクラと同じくらいの少女が満面の笑顔を浮かべた。、とサクラが駆け寄り、簡単に経緯を話すとは頷く。

 「こちらの不注意だそうね。藪から棒に言ってごめんなさい。その子、私の弟みたいなものなの。手を離してくれないかな。」
 「お前、って言うのか?」
 「そう、だけど…?」
 「わぁっ!本当なんだっ!"巫女姫"、私。初めまして!」
 「ちょ、!止めなって。」

 髪を結った少女にと呼ばれた、セミロングの髪にゆるくウェーブがかかった少女は首を傾げるの元へ軽やかに駆け寄った。

 「ちょ、ちょっと待ってよ!はあの"様"じゃないわよ。」
 「あれ?そこのピンクちゃんは知らないの?"様"は年齢こそ六十を過ぎているけれど背格好は私たちと一緒なのよ。」
 「…"巫女姫"って何だぁ?」

 サクラが少し慌てての否定をするとは得意気に話した。の隣でが肩を震わせたが、幸い誰にも感づかれていない。そこに、ナルトが疑問を投げかけ、一瞬時が止まったかのようにしん、と静まり返った。

 「おいおい、本気かよ?砂の俺等はともかく、木の葉の話なのに知らない奴がいるなんて…ソイツだいぶバカじゃん。」
 「リ、リーダー…巫女姫様の話は木の葉歴史教科書の一番最初に乗ってるのに〜。」
 「ナルト…あなたって…。巫女姫と言えば、初代火影が里長に就任する前、木の葉を治めていた人じゃない。…えーと、ちゃんだっけ?残念だけど、私は様ではないわ。偶然名前は一緒だけど、それは様にちなんで付けられたのであって…。」
 「あれ?なんだ、じゃあ私の見間違えかぁ…。」

 の話を聞いては眉を寄せた。巫女姫が目覚めたという事実はは三代目火影の他には木の葉の里ご意見番・ホムラ、コハル、そして今は亡きザイチの四人だけだ。その姿がナルト達と大差無いという事も知っているのはその四人のはず…。―――どこかで情報が漏れている?

 「ね、姉ちゃん、早く助けてー。」
 「あ、木ノ葉丸!」
 「…しゃーねーな。――痛っ、」
 「ぅわぁっ!」

 少年が木ノ葉丸を下ろそうとした所へ小石が飛んで来て、それは少年の手に当たった。その拍子に思わず少年は手を離し、木ノ葉丸は地面に尻餅をついた。は慌てて近寄って、木ノ葉丸を抱き起こす。少年は石が飛んできた方向を見据えた。そこには帰ったはずのサスケが小石を持って見下ろしている。

 「他所んとこの里で何やってるんだよ。――失せろ。」
 「サスケ君、カッコイイ!!!」
 「ちょ、ちょっとそれは言いすぎよ、サスケ!彼等は、」
 「っ、てめぇ…。俺はてめぇみたいに利口ぶったガキが一番嫌いなんだよ…。」
 「ちょ、ちょっとカンクロウ!カラス使うのかよ?!」
 「止めろ、カンクロウ。」

 の制止もむなしく、一触即発な雰囲気の中思わず背筋が寒くなるような声で制止がかかった。サスケが座っている枝の隣の枝に逆さまにぶら下がっている少年。額に"愛"の文字が彫られている。

 「あ、我愛羅!」
 「もっと行動を慎め、里の面汚し共め…。」
 「だって我愛羅!あいつ等が先に突っかかってきたんだぞ!」
 「…黙れ、殺すぞ。」
 「―――ご、ゴメン!な、我愛羅。」
 「ホントにゴメンね!」
 「ぶーぶー。」

 我愛羅、と呼ばれた背にひょうたんを背負った少年は瞬身の術で枝から地面に降り、の前に立った。相変わらず仲間である砂の忍を睨みつけていて、機嫌が悪そうだ。そこへ、我愛羅、と別の少女の声が割り込んだ。

 「姉さん!」

 は瞬身の術で我愛羅の隣に現れた少女を呼んだ。は優しい笑みを浮かべており、その笑みは全てを包んでしまうような寛容さを覚えさせた。

 「我愛羅、いい加減になさい。私達は喧嘩をしにわざわざ木の葉に来たわけではないでしょう?」

 に諌められて我愛羅はようやく頷いた。小さく頭が揺れた事に後ろにいた髪を結った少女、カンクロウと呼ばれた少年、は胸を撫で下ろした。三人とも、さすが姉さん、と頷く。
 サスケも枝からの数歩前に降り立つ。はいつの間にか我愛羅の隣にならんでいて頬を膨らませ、ぶーぶー言っている。

 「ごめんなさいね、私の妹や仲間がご迷惑をおかけして。――早く着きすぎたみたいだけど…遊びに来た訳ではないのよ、それじゃあ行きましょうか。」
 「待って!あなた達、砂の忍がどうして木の葉にいるの?!協定で他国への干渉は許されていないはずよ?!」
 「サクラ、彼等は中忍選抜試験を受験に来た受験者よ。安心して、大丈夫。」
 「へぇ?灯台下暗しかと思ったけど、そうでもないんだね?」
 「受験前にトラブルを起こしてしまってごめんなさ――」

 がごめんなさい、と言おうとしたところにあーっ!っとの声が割り込んだ。、と諌める。

 「姉さん!彼、彼だよ!!わぁっ!こんな所で会えるなんて!やっぱり木の葉の忍だったのね。――あの時は国境近くだったのに、助けてくれてありがとう!」

 はぴょんと重さを感じさせ無い軽い跳躍でサスケに抱きついた。サスケとは軽く目を開いた。いくら油断していたとはいえ、は簡単に間合いを詰めた上に抱きついたのだから。の後ろからぎゃーっ!っと悲鳴が上がったのはこの際気づかなかった事にしておこう。

 「ちょっ、離れろ!誰だよお前、国境近くで助けた記憶なんてないぞ。」
 「え?うそぉ?だって、黒髪で、綺麗な顔してて、瞳は漆黒のようで…って、あれぇ?また人違い…?――ねぇねぇ、兄弟いる?」

 サスケは飛びついてきたは引き離し、距離を開ける。はサスケの反応に首を捻りあれ、と唸った。
 兄弟、と聞いてサスケは表情を変える。は目聡くその変化に気がつき、からサスケを離そうとしたが、それはの姉・がしてくれた。

 「、彼じゃないみたいね。あなたもいい加減になさい。行くわよ。」
 「はぁい!あ、ゴメンネ。もしさ、君に兄弟がいたら伝えておいてくれるかな?『あの時はありがとう、本当に感謝してるの。』って!頼んだよ!」
 「ま、待て!――そこのひょうたんのヤツと、今俺に飛びついてきたヤツ、それを諌めたヤツ…名前は?」
 「私は。私を注意したのはお姉ちゃんの!そして、ひょうたんを背負ってるのが―――」
 「――砂漠の我愛羅だ…。俺も、お前とその後ろのヤツに興味がある。」
 「…うちはサスケ。」
 「私の事はちゃんから聞いてよ…。」
 「! 俺は?俺はぁ?!」
 「…興味ない。―――行くぞ!」

 がもう此処には居たくない、といった風に投げやりに答えるとそれで満足したのか我愛羅達は踵を返した。サスケとに名を尋ねたのに、聞かれなかったナルトは地面にへのへのもへじの顔を書いて拗ねている。
 は我愛羅達が消えた場所を静かに見下ろしていた。―――が目覚めた事を知っている…。彼女の姉だというも、木の葉の巫女姫について何か知っていると考えて良いだろう。何故、とは俯く。水堂には鍵が掛けられているし、水堂の前の芫榑門(げんぶもん)には見張りも立っている。
 結局、考えた所でどうしようも無い。知られてしまったのなら、出来る限り広まるのを阻止するだけだ。
 は笑顔を作って、後ろで騒ぐナルト達に帰ろう、と促した。賑やかな団体がその場所を離れていくのを、木の上から眺めている三人がいた。

 「どうだ…?」
 「問題ないよ…ただ、木の葉の黒髪、巫女姫と疑われた女、砂のひょうたんと黒髪を結った女にその妹。…クク、楽しくなりそうだ。」

 

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*20061125*