WIND

 

 

 

 

 二つ並んだ墓標の前では静かに手を合わせた。
 再不斬を助けようと思えば、助ける事は出来た。しかし彼は死を選び、受け入れそして息を引き取った。もう一週間も前の話なのに、まるで昨日のように思い出せる。今まで似たような状況はあったが此処まで鮮明なのはそれだけ印象が強かったからだろう。

 「どうか、安らかに…。再び生まれてくるときは忍などにならず、平和に暮らせるように…。」

 は小さく呟いて、墓標に背を向けた。小さく紡ぎ出すメロディを鎮魂歌の代わりにした。
 タズナの家に戻ると、体力もすっかり元に戻ったナルトがイナリと遊んでいる。カカシとサスケは二人並んで横になっている。
 カカシはチャクラ多量使用による体力回復を。サスケは白の攻撃を受け、仮死状態になり、身体の機能が少し低下していた為、養生している。あの戦いの後、二人は何もなかったかのように動いていたが相当辛かったはずだ。今はの薬で回復し、もう二、三日もしなううちに里へ戻れるだろう。
 寝てる顔も良い…、声には出していないが緩みきったサクラを見て、は笑みを浮かべた。

 「姉ちゃんお帰り!」
 「ただいまー。」

 イナリに笑顔で迎え入れられ、食事の準備をするツナミを手伝うためには台所へ向かった。

 結局、それからさらに一週間後。すっかり元気になった木の葉の忍達は里に戻る事になった。最後にもう一度、とが進言し、ナルト、サスケ、サクラ、、カカシは再不斬、白の眠る墓標の前に立った。途中の花畑で花冠をつくり、それを二人の墓標にかけてやった。ナルトがお供えの饅頭を取ろうとしてサクラに手をたたかれ、それをサスケ、、カカシは笑った。

 「ねぇ、カカシ先生?…忍の在り方って本当にこの二人が言ってたようなのかな?」
 「忍は自分の存在意義を求めてはいけない。ただ、国家の道具として在らないといけないという部分は同じだろう…。」
 「…そんなの、ダメだ!―――決めたってばよ、俺は俺の忍道を行ってやる。」

 カカシはにこりと笑みを見せた。
 ナルト、サスケ、サクラ、カカシは墓標に背を向け、橋に向かい始めた。はまだそこにたたずむ。それに気づいたカカシがの背後に立ち声をかける。

 「?」
 「―――Cultivate your anger before you idealize...」

 歌いだしたの肩にカカシは優しく手を置いた。ナルト、サスケ、サクラもを振り返り、その歌声を聞く。透き通るような声に聞き惚れ、時間が止まっているような錯覚を覚えさせる。

 「―――Coz you will hate yourself in the end...」

 が歌い終わると、止まっていた時間がまた流れ出したように感じた。

 「…お待たせっ!それじゃあ行こっか。」
 「そうだな。」

 今度こそ、五人は墓標に背を向けて歩き出した。
 橋ではタズナ、ツナミ、イナリ、ギイチが見送りに来てくれていた。

 「お前達のおかげで橋も完成した。寂しくなるのぅ。」
 「お世話になりました。」
 「タズナのじっちゃん、また遊びにくるってばよ!」
 「おうっ、待っとるぞ!な、イナリ!」
 「ナルトの兄ちゃん…、絶対来てね。」
 「イナリってば…、寂しいのなら泣いてもいいんだぞ!」

 誰が泣くものか!とイナリは反発したがその目すでに潤んでいる。ナルトも小さく肩が揺れてる事から涙をこらえてるんだろう。じゃ、とイナリに背中を向けた途端、涙と鼻水があふれ出た。サスケ、サクラ、もタズナ達にぺこりと頭を下げて木の葉の里がある方向へ歩き出す。カカシもまたお辞儀をして達の後ろを歩いた。

 「よぉしっ!帰ったらイルカ先生に一楽のラーメンおごってもらって俺の勇姿を語るぞ〜!」
 「ねぇ、サスケ君、帰ったらデートしない?」
 「断る!」
 「サクラちゃん!俺は〜?」
 「五月蝿い、黙って!」

 賑やかな三人を見て、とカカシは顔を見合わせて笑った。木の葉へ戻る道中は今まで体験した事のない感情を感じさせた。

 ナルト、サスケ、サクラ、、カカシの五人は約一ヶ月ぶりに木の葉の里に戻ってきた。
 二週間ほど前、波の国で再不斬と白がタズナを狙って襲い掛かってき、死闘を繰り広げたのがまるで全て夢のような錯覚を起こすほど、木の葉の里は平穏としている。

 「うーんっ!やっぱ里が一番安心できるってばよっ!」
 「そうね。ツナミさんの料理もとってもおいしかったけどお母さんの料理が食べたいな〜。」

 ナルトの言葉を聞いて、は心の底があったまるような気がした。
 六十年ほど昔、里に名前がない頃襲ってきた尾獣の妖怪。あの時一緒に戦ったもの達はほとんど他界しているが一部は今の子供たちから"おじいちゃん、おばあちゃん"と呼ばれて生きている。彼等がいたから、今の里があり、平和な暮らしを手にしている。
 だがサクラの言葉に、サスケ、は表情に少し影を見せた。二人とも、別の誰かの手によって一族郎党皆殺しにされているのだ。
 カカシは横目で対照的な二組をみて、ひそかに息を吐いた。

 「それじゃ、今日は此処で解散!ゆっくり休んで、調子を整えておけよ。」
 「「「はぁぃ!」」」
 「…フン。」

 サクラはいつものようにサスケを誘いだし、そのサクラにナルトは詰め寄る。――見事に切り捨てられていたが。とカカシはそんなナルトに苦笑して任務報告書提出の為、一緒に三代目火影・猿飛がいるところに向かおうとした。

 「、待て。…俺に少し付き合え。」
 「サ、サスケ君っ?!」
 「…サスケ、に対抗心持つのは良い事だが、時と場合を考えてやれよ?お前も疲れてるんだ、今日は早く帰れ。」
 「ごめん、今日はこの任務の間見れなくて録画してもらってた『忍レンジャー〜愛と友情の結晶〜』と『ウイウイパラダイス』の新刊を読まないとダメなの!可愛い可愛い木ノ葉丸も、私を待ってるのよっ!――明日じゃダメ?」
 「…解った、それで良い。」

 サスケはから『忍レンジャー〜愛と友情の結晶〜』という名前が出て吃驚したが、すぐに平常心に戻して明日の約束をすると自宅の方角へ向かった。はサスケの背中に向かってごめんね!ともう一度言うと待ちきれないのか駆け出して家へ戻っていった。の意外な一面を見たのはナルト、サスケ、サクラだけではなく、カカシも初めてだったようでが忍レンジャーをねぇ、と意味深に呟いてナルトとサクラに手を振って分かれた。

 翌日、は朝早くから慰霊碑の前に居た。一番始めに書かれているジロウの三文字を見つけ、は今泣きそうな表情で無理やり笑みを浮かべた。

 「ジロウ…。私のこの能力は…一体何の為にあるの?」
 「―――今日はの方が早かったか。」
 「おはよう、カカシ。」

 おはよう、とカカシは返しての隣に立った。

 「また、見てるんだな。」
 「うん。ここに来ると、落ち着くんだ。――カカシは、オビトさんの?」
 「ま、そんなところだ。丁度くらいの年頃の事さ。俺もバカの一つや二つ犯す。」

 は曖昧に笑った。実年齢はカカシより大きいが、見掛けの年は十二歳なのだ。あまり悟ったような事を言って訝しがられるのも困る。は久しぶりに付けた腕時計を見て、一度火影邸へ戻ろうと決める。

 「それじゃあ、私戻るね。任務の時、朝早くから此処に来るなら遅刻しないで集合場所に来たら良いのに。」

 カカシは笑って手をひらひらと振った。は今生きていることを確かめるように一歩ずつ地を踏みしめてその場を後にした。
 約束の五分前にが待ち合わせ場所に行くと、サスケはすでにそこに居た。少し離れたところに二つの気配がして、は苦笑する。――ナルトとサクラだ。

 「ごめん、待った?」
 「いや。まだ時間じゃないだろ?――場所を移そう。」

 あの二人は上手く気配を消して隠れていたつもりだろうが、やはりバレバレだった。
 サスケとは微妙な距離を保ったまま無言で里の賑やかな市場を歩く。両端に設けられた店から店主のおじさんや、おばさんが「ちゃんっ、今日はえらい格好ええ男の子と一緒なんねぇ。」と口々にかけてくるものだから、その度にサスケは少し頬を染め、は笑ってごまかした。そんな二人の後ろを一定距離を開けて覗き見していたナルトとサクラは面白くなさそうな表情をしていた。
 時々、店の外に出ている商品をみて、サスケとは話をしながら市場を歩く。二人の容姿は整っていて傍から見れば似合いのカップルだ。実際、当人以外はデートだと思っている。最初はブツブツ言っていたサクラも「に…の…が…、…なら。でも…!」――結局、まだ葛藤しているみたいだ。
 市場を抜け、サスケが合図したのをきっかけに二人は地面を蹴り上げる。人の波にのまれサスケとの姿を見失わない事だけに気をつけてナルトとサクラは二人の姿が消えてしまってから、自分達の尾行を止めさせるためにわざわざこの市場を通ったという事に気づいて地団駄を踏んだ。

 「上手く、撒けたようだな。」
 「そうみたいね。――それで?聞きたい事があるから私を呼んで、あの二人から離れたのでしょ?」
 「単刀直入に言う―――、お前は下忍じゃないのに、どうして下忍をしている?」
 「―――"閃"の名を調べたのね?…解った。正直に話すけどナルトとサクラには話さないって約束して。それが守れないのなら話す事は出来ないし、記憶を消すわ。」

 二人は下忍と認められたあの演習場の近くで腰を下ろした。
 はサスケが緊張した面持ちで頷いたのをみて、軽く息を吐く。

 「サスケの言うとおり、私はもう下忍ではない。この里の忍の強さで言うのなら上忍クラス…と言ったところかな。下忍をしてるのはある任務の為よ。内容は話せないけど火影様直々に頼まれてる。」
 「そ、の歳で、上忍…、」

 サスケが目を丸くし、を見つめて呟いたのを、は少し悲しげに微笑んだ。

 「波の国でカカシが言ったように、私の忍としての動きは全て一族の当主、ザイチのもの。――"木の葉三強"は有名でしょ?あなたの一族も、その木の葉三強の一つだもの。」
 「…でも、俺は一族の全てを教えてもらえなかった。」
 「それは、当主の考え方の違いだと思うわ。きっと、うちは当主はサスケに強くなってもらいたいだけでなく、今の歳頃にしか体験できない事を、いろいろ体験して欲しかったのだと思う。」
 「ち、がう…!父さんは、いつも兄さんばかり…!」
 「――うちはイタチ、か…。」

 その名を聞いて、サスケははっとした。少し喋りすぎた、というようにバツの悪い表情をしての視線から逃げるように顔を逸らす。

 「…本当、彼は凄い人だわ。だけど、それ以上に悲しい人でもあると思う。勝手な私の意見だけどね。――サスケが彼を憎む気持ちを私は解ってるつもりよ、同じ生き残りとしてね。でも、復讐は何ももたらしてはくれない。成し遂げた先にあるものは――ただの"虚無"よ。」
 「!」

 サスケは思い切りの睨み付けた。それを正面から受け止め、は儚げに微笑む。

 「今は…解らなくていいよ。でもきっと、解る日が来るって信じてる。――話はこれだけよね?それじゃあ、私は帰るわ。木ノ葉丸に忍術教えてあげる約束しているの。」

 は立ち上がり、軽く砂を払う。

 「待て!――俺に、俺にも、」
 「私は、誰かを殺す為に強さを求める人には何も教える術を持っていない。私が持っている力は人を救う為にあるの。――私は、たとえ敵対する者でもあっても、死んで欲しくない。もう、誰にも死んで欲しくないの。」

 今にも泣きそうな切なげな声にサスケは何も言えずただを見つめるしか出来なかった。はおへその辺りを軽く撫でた後、サスケに向かって笑みを見せ、また明日。と言って歩き出した。の姿が見えなくなるまでサスケはその場所を動けずにずっと見据えていて、ぎゅっと拳を握り締めた。

 「俺に、どう生きろと…?!アイツを憎む事で生きて、強さを求めた俺に…!」

 その答えを出すのはサスケ自身。

 

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*20061125*

 

 

途中引用した歌詞…By AKEBOSHI/♪WIND