WIND
チャクラコントロールの修行をナルト、サスケ、サクラ、キアに課して七日。
キアは初日にその修行を終え、続いてサクラも翌日には終えた。ナルト、サスケはコントロールを身体に覚えさせるために続けている。カカシがある程度できるようになれば木登りをやめてタズナの護衛に入っても良い、と言ったにもかかわらず二人は依然として手を使わずに上る練習をしていた。――なんでも、木のてっぺんにまで行かないと気がすまないらしい。
「なんで?」
「…お前に負けてられるか。」
キアがサスケに尋ねるとそんな返答が帰ってきた。好敵手に認められてしまったようだ。
七日目の夜、今まであまりタズナの家に帰ってこなかったナルトがサスケに肩を借りて帰ってきたのは丁度今から夕食を食べようとした頃だった。無事に頂点までたどり着いた事をカカシに言うと、カカシは頷いて二人に翌日からタズナの護衛に行くように言い渡した。こうして、チャクラコントロールの修行は全員無事に終える。
翌日の朝。ぐっすり眠るナルトを見て、カカシ、キア、タズナは苦笑した。体力もチャクラも限界まで使い一人で歩いて帰ってこれなかったナルトが、朝定時に起きれる事などないだろうと予想していただけに、やはり、といった風だ。
「それじゃあツナミ、イナリ、行って来るな!今日も超頑張るぞ!」
「お父さん、無理はしないでね。」
「ナルトをよろしくお願いします。キアをナルトに付けときますんでアイツの身体の事は心配要りません。――キア、頼んだぞ。」
「はい。―――カカシ…気をつけて。みんなもね。」
「!」
キアがカカシを名指しで言ったのを、サスケは不思議な気持ちで聞いた。キアの言葉に軽く反応するカカシに首を傾げる。疑問を口にしようとしたがカカシが行こう、と促したので結局何も言わずにタズナ達と橋へ向かう。
ツナミを手伝って午前中の家事を終わらせる。ナルトが寝ている隣の部屋に座り、キアは持って来ていた『未知の領域~肉体と精神~』を読み始めた。ツナミは編み物を取り出し、イナリはツナミを手伝っている。そこへ、賑やかな声が割り込んだ。
「ナルト君、目が覚めたのね。」
「寝過ごしたってばよ!みんなは?――キアちゃん!みんなは?!」
「タズナさんについて行ったけど…カカシが今日はゆっくり休めって―――」
「くっそーっ!いってきまーすっ!」
「―――…あぁ、もう。落ち着きがないんだから。すいません、ツナミさん、イナリ君。」
「キア姉ちゃん…苦労してるんだね。」
イナリの一言にキアは大きく頷いた。
「それじゃあ、私も橋に向かわせてもらいますね。」
「えぇ、お父さんをよろしくね。」
キアは笑顔で返しツナミ、イナリに見送られて橋へ急いだ。
キアは自分があの時以上に焦っている事に気づいていた。―――"未来読み"(さきよみ)で見た未来は今のところ十割の確立で当たっている。つまり、外れた事がない。昨晩寝る間際に見えた未来は今日、橋で再不斬とお面の子がカカシ達と戦っている場面だった。断片的にしか見ることは出来ないが、死体が三つ出る。一つは木の葉の額宛が見えて、黒髪だった。
「…死なないで、サスケ…!」
視界の端で木が大きく揺れた。キアは気配を消し、立ち止まってそちらの方向を見た。良く見れば刀傷が付いている。まさか、と思って引き返そうとすると、あの声が聞こえた。
「ナルト!」
「キアちゃん!この刀傷…!この先に刀で切られたイノシシも居たんだ、ツナミさん達が危ないかもしれない!」
「そうね、急いで戻ろう!」
ナルトは頷いて大きく跳躍し、タズナ家がある方への木へ飛び移った。
二人は無言だったが、途中キアが何かに気づいた。
「ナルト、ツナミさん達頼むね!」
「えぇっ?キアちゃんは?!」
「ツナミさん達助けたら、直ぐに橋に行って!私も後から行くから!」
いいわね、と念を押してキアはナルトから離れて別の方角へかけていった。残されたナルトはキアのいうとおり、タズナの家を目指した。
ナルトから離れて、キアが何かを感じ取った場所には男が一人倒れている。意識は在るようだが反応が鈍い。額宛はすぐに目に付く場所になかったが服装からキアは忍だと判断した。その時、ふわんと漂った甘い香りに、キアは慌てて口と鼻に手を当てた。良く観察してみると此処一帯はクララトリカブト※の生息地だ。―――何故、こんな人が住む場所近くに?!キアは急いでポーチから布を取り出しマスクをすると、男に駆け寄り瞬身の術でクララトリカブトから離れた場所に移動した。
乱れた呼吸を正す間もなく、キアは直ぐに男に応急処置を施す。男は首から提げた笛を手にしていた。これか、とキアは思う。ナルトと二人でタズナの家に向かう途中気づいたものだ。
解毒関係の薬はあまり持ってきていなかったが、それでも十分に足りた。毒薬は主にトリカブトを使う。それゆえにトリカブトの毒を解毒する薬で九割もの毒を解毒する事が出来るのだ。幸い、クララトリカブトはトリカブトの一種だ。キアは調合を終えると、マスクを取り、自身がそれを含み男の眼鏡を少しずらして飲ませてやった。
飲みきったのを確認してから、肺の辺りに手をあて、チャクラで血流を活性させる。そうすることで肺にたまった有毒な空気を外へ排出する事が出来る。
しばらくすると、男は大きく息を吸い込み、ゆっくりと目を開けた。何度か咳き込んだが、すぐに呼吸を戻した。キアはようやく胸を撫で下ろした。水を器に入れそれを男に手渡した。それを受け取った男は喉を鳴らして飲み干した。キアは少し目を開いた。――いくら死の淵にいたからといって、簡単に人から受けたものを口にするなんて。忍らしくない人だな、と思う。
「た、すけて頂いて、ありがとうございます。」
「いいえ。」
男は器をキアの手に戻して、笑みを浮かべた。キアは表情をあまり外に出さないように努めて無表情を作った。
「危ういところでした。この笛の音に気づく人がいるとは思わなかったので。」
「どうして、あの場所へ?――あなたも忍とお見受けしますが?」
「えぇ、あなたのいうとおり、僕も忍です。いや、お恥ずかしい。解毒に使うトリカブトを採りにあそこへいったんです。足を踏み入れてからクララトリカブトと気づき、気づいた時にはもう遅かった。」
男はすっかり体調をよくしたようで、立ち上がり、服についた砂などを軽く払い落とした。キアも道具を戻し、立ち上がる。
「今後は気をつけてくださいね。」
「どうもありがとう。それじゃあ――あぁ、君の名前を聞いても?」
「…忍が簡単に個人情報をお教えすると?あなた、他国の忍でしょう?」
「――…それじゃあ。どこかでまた会えるといいね。」
男はずれた眼鏡を押し上げて瞬身の術で姿を消した。キアはしばらく、男がいた場所を睨みつけていたが、瞬身の術を使って橋へ急いだ。
橋の辺り一帯を覆っていた霧が、キアが近付くに連れてうっすらと晴れていく。同時に血の匂いが立ち込め、顔をしかめた。橋の中央辺りにたどり着くと、キアは目を見開いた。――カカシの右手で胸を貫かれた少年と、その奥で千本に刺され、倒れているサスケ。サクラの嗚咽が木霊した。
「嘘、でしょ…。」
キアは愕然としたが背後に多数の気配を感じて、ナルトの近くに移動した。
カカシと再不斬は続けて戦闘を行い、ナルトとキアはただそれを見ているしか出来なかった。ナルトが小さな声で白を助けて、と呟いたが、キアはただ左右に頭を振るしか出来なかった。左胸にはぽっかりと穴が開き、心臓と肺の一部を潰されている。医療忍術を用いても、潰された心臓と肺を復元させるのは無理だ。キアはぎゅっと手を握って悲しみに耐えるしかなった。そこへ、場にそぐわない笑い声が響いた。
「なんて無様な格好だ、"霧隠れの里の鬼人"が聞いて呆れるわ!――のぅ、再不斬。」
「ガトー…何故此処来た?後ろの奴等は何だ。」
「最初からお前など信用しておらなんだ。いつ裏切られるか解らんからのぅ。金も払うつもりなどないわ。――それになんだ、その様は。鬼人といわれたお前も、そのナリじゃあ、"子鬼ちゃん"って所だな。」
ガトーが再不斬を揶揄すると、後ろに控えている男達が腹を抱えて笑い出した。さらに、ガトーは前へすすみ、白が倒れているところにやってきて、もう息をしていない白の顔を蹴り飛ばした。それを見たナルトは血を頭に上らせ、キアが止める間もなく走り出したが、カカシがそれを止めた。ナルトは再不斬に向かって、白と生前話したことがあるだろう話をし始め、押しとどめていた涙を零した。
「こいつは、本当にお前の事が好きだったんだ―――」
「小僧―――もういうな。クナイを貸せ。」
「―――え…、うん…。」
ナルトは右太もものホルダーからクナイを取り出し、再不斬に投げた。それを再不斬は口で受け止め、ガトーを一睨みして、走り出した。ガトーは慌てて集めた手下の中にまぎれたが、再不斬は向かってくる敵に省みず真っ直ぐガトーを目指しその首を胴から切り離した。
再不斬は背に何本もの刃物を受け止め、それでも立っていた。カカシとの戦いで使えなくなった両腕を重たそうにぶら下げ、口にクナイを銜えたままで、まだ残っているガトーの手下をにらみつけた。その恐怖に手下達は怯んで後ずさる。再不斬はついに、地面に倒れた。
キアは息を呑んでその様子を見守る。いつでも再不斬を助ける準備は出来ている。しかし、自分からは助けにいかない。これは、彼の…再不斬の誇りをかけた戦いでもあるのだ。
背後で、サクラがナルトとキアを呼んだ。ナルトはすぐに後ろを振り向いたが、キアは再不斬を見据えていた。サスケは―――死ななかった。"未来読み"で"見"たものが外れた?
「お前等!安心するのはまだ早いんじゃねぇーかっ?!俺等がいる事忘れるなよ!」
「殺るぞっ!!」
ガトーが雇った手下達は支払済みなのか、すでに雇い主はいないというのにカカシ達に向かって走り出した。ナルトが先生!と声を荒げたが、カカシが動けないのは目に見えて解っている。キアは素早く印を結び、影分身を作り出した。その数、二十。ナルトも続いて影分身を出したがチャクラが少ないのかいつか見せた千人には全然満たない五人を作り出し、カカシも影分身を作り出した。
三人合わせて五十を軽く超えると、ガトーの手下達は怯んだ。そこへ、一本の矢が飛び込んでくる。その方向に全員が視線を向けると、町人達が集まっていた。
「イナリ!」
「ナルトの兄ちゃん!――ヒーローってのは遅れて登場するもんなんだろ!」
にっこりとイナリが笑うと、つられてナルトも笑みを浮かべた。ガトーが雇った手下達は数で不利になったと解ると武器を投げ捨てて我先にと逃亡し始めた。そのしっぽの巻きの速さに町人達は大声で笑う。
影分身を消し、カカシとキアは再不斬の元へと向かった。
「…全て終わったようだな――悪い、カカシ…アイツの、白の顔が見たい。」
「再不斬、私…、」
「閃…お前と手合わせできた事は強さを求めた俺にとって幸いだった。もっと、お前と戦いたいが…俺には待ってるやつがいるから…。」
カカシは再不斬を横抱きにして白の横へ横たわらせた。ほとんど動かない手を懸命に伸ばし、再不斬は白の頬に添える。季節外れの雪が突然、降り出した。
「沢山人を殺した俺だけど…出来るなら、お前と同じところへ行きたいなぁ…。」
再不斬は静かに目を閉じた。
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*20061119*
※クララトリカブト…捏造です。実在しませんので信じないで下さいね!
芽吹きの頃は山菜と間違えて誤食してしまうケースがある。誤食すると手足のけいれんを引き起こし、素早く応急処置を施さないと死に至る。花がつくと甘い香りが漂う。しかし、この香りにも毒があり多量に吸い込むと身体がしびれ、意識が朦朧となり時には幻覚を見ることも。発見が遅れると死に至る。
■クララ…マメ科。くらくらするような苦味を持つ。直接食べる事はないが胃腸薬として煎じた物を用いられる。ただし、多量に服用すると呼吸、脈拍が早くなるなどの中毒症状を起こす事がある。
■ヤマトトリカブト…キンポウゲ科。春に山菜と間違えて誤食するケースが多い。誤食すると、手足のしびれが起きた後死亡する事もある。
コチラを参考にしました。
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