WIND

 

 

 

 

 「私達は先ず確認しないといけなかったことがあるんです。―――私達木の葉の忍が狙われたのか、それともタズナさん、あなたが狙われたのか。」

 の言葉に、タズナの肩が揺れる。カカシはそれについて今回の任務についての矛盾点を挙げた。加勢するかのようにサクラがこの任務は早い、と進言する。下忍に成り立ての忍には確かにBランク以上に振り分けられるこの任務の責任は重いだろう。

 「カカシ、先生。ナルトの治療もあります。もしタズナさんを狙って次の刺客が来るとすれば恐らく中忍、もしくは上忍以上…。」
 「、"見"えないのか?」
 「現在は。"見"えるのは水くらいで。」

 カカシとの会話にサスケ、サクラ、タズナは首を傾げる。ナルトは自分の力の無さに憤っていた。サスケも、も、初めての実践なのにどうして…、毎日基礎トレーニング、術の練習をしているのにどうして…!
 がナルトを振り返ると、ナルトはクナイを傷に差し毒を出していた。

 「俺が、この傷に誓って…、オッサンは守る!任務続行だ!」
 「…景気良く血を抜くのはいいが…そのままだと失血死するぞ。」
 「! ダメダメ!こんな所で死ねない!せ、先生早く助けてー!」
 「カカシ、先生。私が。」
 「あぁ、頼む。――名前と先生の不自然な間は相変わらずだな。めんどくさいのなら呼び捨てでもいいぞ。」

 本当に?とが笑顔を向けるのでカカシははは、と乾いた笑いで返事をした。はナルトの傷を見る。すでに塞がり始めてるのを見てやはり、と頷く。

 「ちゃん…俺、大丈夫?」
 「大丈夫、大丈夫!んじゃちょっと手助けするね。」

 はチャクラを練り、塞がり始めてる傷に手をかざした。シュウウと音を出し、綺麗に傷がふさがると、ハンカチを水で湿らせ、汚れた手を拭き、腰のベルトから清潔な包帯を取り出して慣れた手つきでナルトの手に巻く。

 「医療忍術…!すごい、私初めて見た!」
 「そう?でも医療忍術も限度があるからね、全ての傷を直す事は出来ないけど。」
 「私にも出来るかな?!」
 「医療忍術は他の忍術と違ってチャクラコントロールが難しいの。だから、人によって適不適はあるだろうけど、修行を積めば出来ると思うわ。」

 とサクラが医療忍術について話している間に、カカシとタズナは任務についての話をしていた。
 一行は霧の中、ボートに乗って波の国を目指していた。タズナが建設していると言う大きな橋が見えてきて、ナルトが歓声を上げるが、漕ぎ手が慌ててナルトをたしなめた。ガトーという男に見つかると、命の危険に晒されるらしい。
 マングースの森を抜けて、小さな停泊場に着くと漕ぎ手は此処までだ、といってタズナ達を下ろした。彼は直ぐにもと来た道を引き返した。ナルト、サスケ、サクラ、、カカシ、タズナの六人は再び歩いてタズナの家を目指す。
 はピクリと肩を揺らして反応した。ナルトがその近くへ手裏剣を投げる―――鼠だった。サクラとカカシが危ないからやめろ、と注意するが、ナルトの勘は当たっている。恐らくナルトの中のヤツが本能的に嗅ぎ取ったのだろう。別の方向から先ほどよりも少し濃い気配がした。これにはカカシも反応する。ナルトは再び手裏剣を投げた。は慌ててナルトが手裏剣を投げた場所へと急ぐ。後ろからカカシとサクラもついて来た――そこには白いユキウサギがいた。

 「カカシ。」
 「解っている、変わり身用のユキウサギだ。…、ヤバイと思ったらタズナさんとナルト達を連れて逃げろ。」
 「…了解。カカシ、"水"に気をつけて。嫌な予感がする。」

 タッと背後で気配がした。カカシは伏せろ!と声を張り上げた。は急いでタズナの元へ行き、その勢いで押し倒す。頭上をびゅんびゅんと何かが通り過ぎ、先の木の幹にカカシの身の丈以上の大刀が刺さり、その上に男が立っている。

 「…霧隠れの抜け忍、桃地再不斬君ではないですか…。」
 「桃地再不斬…?どうしてアイツが。」
 「俺を知ってるとは、お嬢ちゃん、手配書を見た事があるようだな。」
 「…えぇ、まぁ養父の持つ手配書を興味本位で一度盗み見た時にね。」
 「お嬢ちゃんの隣にいるのは写輪眼のカカシじゃないか。此処で会うとは…。」

 カカシは下ろしていた額宛を上げた。久しぶりに見る彼の眼は全てを見透かすような紅で、同時に彼を思い出させた。
 カカシが写輪眼を持つきっかけになった話を、は養父のザイチから聞いた。どの時代にも、似たような話があるのでた大して気にも留めていなかったがの夢の実現は難しい物なのだという現実を突きつけられた。

 「みんな、卍の陣だ。戦闘には一切手を出すな。それが此処でのチームワークだ!」
 「はっはっは、可愛いヒヨコども連れてるじゃねぇか。俺の殺気に当てられて震えてやがる。」
 「再不斬、先ずは俺と戦え!」
 「"コピー忍者"と名高いお前と戦うのは嬉しいがこちらの技をコピーされかねん。できればそこのお嬢ちゃんと殺りてぇなぁ…。なぁ、?―――何故名前を知っている、という顔をしているな?木の葉三強と謳われたザイチの隠し子で、」
 「それ以上言ったら、お前泣かす!」

 どすん、と落ちる音がした。
 ナルト、サスケ、サクラ、タズナはゴシゴシと自分の目を擦る。
 見間違え出なければ、が、再不斬が刀を突き刺した木を素手で殴り、刀の上に立つ再不斬をこけさせたなんて。カカシは乾いた笑いを漏らし、再不斬は不恰好のままを睨んだ。

 「私は下忍!それに、隠し子じゃないもん!」
 「テメェ…嘘はいけねぇなぁ。まぁいい…。戦いたくねぇと言うのなら、戦う気にするまでだ。―――忍法・霧隠れの術。」

 カカシに視線を向けると、彼は俺がやる、と頷いた。の任務の件を詳しく知らされていないだろうにの立場が悪くならないよう気に掛けてくれる。ほんの一時、二人一組で組んだことのある頼りがいのある相棒だ。
 霧が濃くなり、その中に隠れた再不斬の気配を感じた時、はナルト、サスケ、サクラの背中を押し、タズナの大きな身体を十二歳の少女のどこにそんな力があるのか、と疑いたくなるような強い力で後方へ引っ張り、再不斬の攻撃を避けた。

 「っは!そのスピード、判断力!間違いない、"閃"!」

 再不斬はようやく宝物を探し当てた時のような喜びを殺気の中に混じらせた。はぴくんとその気配に反応し、再不斬を睨みつける。再不斬はその視線に背筋がぞくぞくするような快感を覚えた。そして、早く血を早く見たいと思う。
 性別の差、青年と少女という差が、の弱点だといえる。戦闘においての判断力、忍術、幻術は右に出るものがいないとしても、スピード、体術はどうしても負けてしまう。その為が取ってきた戦法は狙った目標は反撃する間もなく絶つ事だった。故に異名は"閃"。閃光のように一瞬で任務を遂行させるという由来からだ。
 再不斬との力の差に、は押され気味だった。ナルト、サスケ、サクラがいる前では本気で戦えない。援護するようにカカシがと再不斬の間に入り込んだ。その隙には瞬身の術でタズナ達の元へ戻る。

 「ちょっと、大丈夫?!」
 「平気…。それよりも、此処はカカシに任せて、早くタズナさんを、」
 「、後ろだっ!」

 サスケの声には素早く印を結んだ。その瞬間、再不斬の大刀が振り下ろされ、の身体は真っ二つにされたが血の代わりに透明の滴が飛び散っただけだった。

 「くっ!お前もこの霧の中で水分身の術を?!」
 「お生憎様、カカシの様な眼は持ってないのでコピーできませんよ。」

 はチャクラを右手に溜め、野球ボールほどの大きさにする。それを再不斬に向けて殴りかけ、お腹に決めた。再不斬はぱしゃんと消える。
 が水分身に気づき顔を上げると、湖の上で捕まっているカカシを見つけた。消えたはずの水分身がもう一体、現れる。

 「か、カカシ先生っ!」
 「―――くそっ、忠告を忘れるとは…!お前達!タズナさんを連れて逃げろ!こいつは此処を動く事ができない、水分身もある程度距離が離れたら使えなくなる、だから早く!」
 「うおおおっ!カカシ先生を放せぇっ!」

 ナルトが再不斬に向かって走り出す。はナルト!と叫ぶが言っても聞かないことは十分承知だ。案の定直ぐに蹴り返される。

 「フン…額宛をつけて一丁前に忍者気取りか。忍者とは死線を越えてきた者の事をいうんだよ。」

 ナルトの額宛は再不斬の足で踏みつけられた。は強く手を握りしめる。――人の死の上に成り立つなど、ありはしない!は再不斬をきっと見据え、決心する。
 ―――アイツを倒す!
 その矢先にナルトは再び再不斬に向かって走っていく。は出端をくじかれ頭を抱えた。再びナルトは再不斬によって蹴り返される。は衝撃を少しでも和らげようと、ナルトの身体を受け止めた。

 「ナルト!あなた、なんでそんな、」

 ナルトはゆっくりと立ち上がり、取り返した額宛をもう一度結びなおした。はその姿を呆然と見据えた。ザイチの姿が重なる。

 「おい、眉ナシ。お前の手配書に俺の名前も書いとけよ。いずれ木の葉の里の火影になる男…木の葉流忍者・うずまきナルトってな!―――サスケちょっと来てくれ!作戦がある。」
 「フン、お前お得意の作戦かよ…。」
 「ちゃんも、手伝ってくれる?」

 はふ、と笑みを浮かべて立ち上がる。いつの間に、成長したんだろう。あぁ、この子はきっと戦いの中で大切なものを学んでいくタイプなのか。――ザイチのように。
 ナルトが暴れるぞ、と言った後、再不斬が高笑いを上げた。無音殺人術を用いる彼は鬼人・再不斬という異名もある。その名が至った理由を楽しそうに述べ、ありったけの殺気を放った。思わずもぞくりと背筋を振るわせる。
 殺気に押され隙を見せたのか、サスケが再不斬の水分身に蹴り上げられ、地面にたたきつけられる。怒ったナルトは影分身を出し、再不斬に飛びつくが簡単に引き離された。はタンっと地面を蹴って、クナイを再不斬の首筋を狙って振り上げるがそれも止められる。ナルトはリュックから取り出し、力いっぱいサスケに向かって投げた。

 「サスケぇっ!」
 「風魔手裏剣――影風車!」

 サスケが投げた手裏剣はと水分身の間を通り抜け、カカシを捕まえている本体へと向かった。しかし、それも簡単にかわされるがサスケの唇が弧を描く。

 「ここだぁっ!」

 手裏剣の死角にもう一枚の手裏剣――影手裏剣の術には笑みを浮かべる。気に障ったのか水分身が掴んでいたの腕を振り上げ、を空中へほり投げた。は直ぐにバランスを整え、ふわりと地面に着地した。
 手裏剣に変化していたナルトによって術を解かれ、カカシを開放してしまった再不斬は随分と頭に血が上っているようだ。湖の上で再びカカシと再不斬の戦いが始まる。しかし、勝敗は明らかだった。オリジナルの技を出そうとした再不斬よりカカシが早く術を発動し、再不斬を木に叩き付けた。
 ぐぅっ、と再不斬は痛みに顔を歪めた。四箇所にクナイが刺さり血が滴る。頭上にはカカシがあの紅い眼で再不斬を見下ろしていた。

 「俺の未来が、見えるというのか?!」
 「…あぁ、お前はここで死ぬ!」

 カカシが宣言すると二本の千本針が少し離れた木の上から飛んで来て、再不斬の首筋に刺さった。は直ぐに反応して、再不斬の元へ駆け寄る。サスケが危ないんじゃ、と声をかけたが医術を修めているにしてみれば死んだか死んでいないかは直ぐにわかる。
 脈を取り、瞳孔の開き具合を確認し、再不斬が死んでいる事を確認する。

 「、」
 「確かに、死んでいる。」
 「感謝します。僕はずっと再不斬を殺す機会をうかがっていたので。」
 「そのお面、あなた霧隠れの里の追い忍?」
 「えぇ、あなたの言うとおりです。おかげで任務を遂行する事が出来ました。―――それでは僕はこの死体の処分を…。なにかと秘密の多い身体ですから。」
 「ちょ、ちょっと待てよ!!お前って一体なんだってばよ?!」
 「はぁ…ナルト、少し落ち着け。―――この世界には、お前より小さくて、俺より強い忍者もいるんだ。」

 追い忍と再不斬が消えると、はようやくほっと胸を撫で下ろした。
 再不斬のせいで危うく正体をばらされそうになったが、何とかごまかせただろう、と思う。しかし、サスケ、サクラ…彼等は下忍としては高い判断力、知力あり、勘がいい。質問された時曖昧な答えでは返って疑わせるだけでチームワークどころではなくなってしまう。――どうしたらいいのだろう、と頭を抱えたくなった。やはり、再不斬を一発殴っておくべきだった。
 視線を感じて振り返ると、案の定サスケが訝しげにを見据えていた。すぐに視線をずらしていたがにとっては十分な結果だ。少し長めに重い息を吐いた。
 危険も去り、行きましょうとカカシがナルト達を促した途端、カカシは地面に倒れた。ナルト、サスケ、サクラ、タズナは慌てて駆け寄る。は一人冷静にベルトから黄色い粒を一つ取り出して、駆け寄ってカカシの口に入れてやる。

 「何?一体どうしたの?!」
 「カカシ先生っ!」
 「サクラ、大丈夫だから落ち着いて。今、兵糧丸食べて貰ったから少しチャクラが戻ってるはず…。タズナさん、すいませんがカカシ、先生運ぶの手伝ってもらえますか?」
 「あ、あぁ。」

 サスケ、サクラ、の三人でカカシの身体を動かし、タズナの首に腕をかける。タズナに支えられ、カカシはゆっくりとタズナの家に向かった。

 

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*20061111*