WIND

 

 

 

 翌日、は昨日案内された教室にイルカと一緒に向かう。が医療忍術を使って傷を塞いだおかげか、包帯はまだ取れていないがイルカの調子は良さそうだった。
 教室にはすでに以外の全員がそろっていて、ドアが開くとみんな一斉にイルカとに注目した。はすぐに金色の髪を視界に見つけた。だらしなく緩んでいる笑顔に小さく笑みを零して昨日と同じく、ドアに一番近い席に腰を下ろした。

 「みんな、卒業試験合格おめでとう!晴れて下忍になった訳だが、これからは三人一組で、それぞれの班に就く上忍の先生にしたがってもらう。班分けは力が均等になるようにこちらで決めた!――文句を言うんじゃない!今年の合格者は二十八名。四人一組七班に分けるか話し合ったのだがそれだと上忍の先生に負担を掛けてしまうので本来の三人一組九班で班分けを行う。まぁ一班だけ四人になるが。それじゃ、名前を挙げていくぞ!」

 イルカの説明に途中えーっ!と声が上がったが新米の下忍達は誰と班を組むのかに気を取られて自分の名前が挙がるのを今か今かと、心を躍らせて待っている。

 「――じゃ、次七班!うずまきナルト、春野サクラ、うちはサスケ、!」
 「ちょっと待ったぁ!イルカ先生!どうして俺がサスケと一緒なんだ?!」
 「…はぁ、お前は本当に俺の期待を裏切らないな。言わせて貰うけどな、ナルト。サスケは今回の合格者の内トップクラスの成績。それに比べてお前はドベだ。班の力を均等にするには必然とこうするしかないんだ。」
 「…フン。せいぜい俺の足を引っ張るなよ、ドベ。」

 ナルトを騒ぎ出したので、は苦笑した。イルカに視線を戻すと、彼も苦笑している。イルカは気を取り直してまだ読み上げていない合格者の名前を挙げて、全ての班分けを終了させた。

 「午後からは上忍の先生との対面だ。昼ごはんを食べた後、またこの教室に戻り、上忍の先生が来られるまで待機しておくようにな。――特にナルト!聞いてるのか?!」

 イルカがナルトを特別注意するとどっと教室が沸きあがった。
 イルカは直ぐに解散を言い渡し、教室を出て行こうとするときにに視線を向けた。は席を立ち、イルカと一緒に教室を出て行く。校庭へ続く廊下を歩きながらがポツリと独り言を言うように呟いた。

 「これからですね。」
 「あぁ、俺の役目も此処までだ。詳しい事は何も知らないが、どうかナルトを…。」
 「あはは、イルカさんまだ結婚してないでしょう?もう子持ちのお父さんみたいですよ。」
 「まぁ、ナルトは手のかかる奴だったからなぁ。」
 「大層な事は私も言えませんけど、七班の上忍は頼りになります。イルカさんもご存知ですよ、ほら。"木の葉の白い牙"のご子息だから。」

 そうだな、とイルカはようやく笑みを浮かべた。

 「それじゃあ、後は頼むな。」
 「はい。では、また。」

 イルカと別れ、は一人校庭に出る。昨日の合格発表の時、ナルト一人が落ちた時座っていたブランコにも腰掛けてゆっくりとこぎ始めた。
 ――ブランコに乗るなんて何年ぶりだろう。あの時とは状況も、環境もずいぶんと変わってしまった事に少し寂しさを覚えた。一緒に遊んだ猿飛、ザイチ、ホムラ、コハル。彼等はもうブランコに乗らないだろう。は一人取り残された気がした。

 「あっ、こんなところにいた!さん!」

 呼ばれて地面に会わせていた顔を上げるとピンク色の髪を風になびかせた女の子がこちらに向かって来た。

 「探したわ。――えぇと、私、春野サクラ。同じ班の。」
 「でいいよ。なんで私を探してたの?春野さん。」
 「私もサクラでいいわ。――なんでって、お昼一緒に食べようと思っても直ぐに教室を出ていちゃったし、それにあなたの事、よく知らないし。」

 あぁ、とは頷いた。同じ班になる者なのだから知っていて当然の事を彼女とは共有していないな、とは失念していた自分を責めた。

 「そうだね、じゃあみんなの前で話そうか。多分みんなもサクラと同じように思ってると思うよ。卒業試験当日に現れた謎の少女の正体は一体!ってね。特に私の名前は『』様と一緒だもの。」

 がにこりとしてそういったが、『』様と呼んだ時、サクラの肩が一瞬揺れたのは気のせいではない。――恐らく教室に戻れば質問攻めだ…。気が重たくなってきたが避けて通れない道のようで、はサクラに行こうと促し教室に戻った。
 教室に戻ると案の定一瞬にして囲まれた。席に座ったままの数人は興味なさそうにしているが聞き耳を立てているのはバレバレだ。

 「えぇと、です。――あ、って呼んでもらっていいです。忍者学校に通っていなかった理由は昨日先生が仰った通りで…。班分けは先ほどイルカ、先生が仰ったように七班になったので七班の人、よろしくね。」
 「は好きな人いる?!」
 「サスケ君と一緒の班なんて、羨ましい〜!」
 「ねぇ、『』様とは関係ないの?」
 「その事だけど…。確かにあの"水堂"から様が消えた事は大事件だけど、よく考えて。火影様が嘘を仰ったのかも知れないじゃない?あの水堂へは火影様しか立ち入れないし…。その頃私は火の国ではなく霧の国にいたんです。――って名前は珍しくないでしょう?どうして私に聞くの?」
 「木の葉隠れの里を命がけで守った巫女様の名前は、女の子が生まれた家庭ではみんなそろって付けたがるけど、は特別よ。だってここにいるみんなあなたの事、昨日まで知らなかったんだもの!」

 それはそうだ、とは言葉にせず頷いた。此処にいる新米下忍達が忍者学校に入る前はすでに卒業していた。その一年後には中忍選抜試験に合格して四人一組の小隊長をしていたし、ついこの間までは上忍兼暗部としてSランクの極秘任務をしていたのだから。
 が曖昧に笑っていると、早速上忍の先生達が現れた。新米下忍達は慌てて席に戻る。は助かったと見知った顔の上忍達に目配せして席に着き、引率されて教室を出て行く下忍達を見送った。最後に残ったのは七班だった。

 「みんな行っちゃったね…。」
 「先生遅いね。」

 サクラが不安げに呟き、が頷く。サスケは顔の前で手を組んで何か考えているようだった。落ち着かないのか、ナルトがそわそわしてるのが気になった。

 「うししっ!」
 「ナルト、何やってるのよ!(本当はこうゆうの大好きなのよー!)」
 「遅れてくるのが悪いってばよー!」
 「上忍がそんなベタなブービートラップに嵌るかよ。」

 ナルトが黒板消しをドアに挟み急いでその場を離れ、何食わぬ顔で席に座った。サクラはナルトを諌めてはいたが本心は楽しんでいるようだ。は苦笑しながらその様子を見つつ、廊下に現れた気配にふ、と笑みを浮かべる。ドアが開くと、銀色の髪が赤、黄、青、緑、白とカラフルに染まった。思わず噴出しそうになり、慌ててぱちんと口に封をした。こういうとき、素直に笑えるナルトが羨ましい。

 「うーん、なんと言うか…お前達の第一印象は、嫌いだ!」

 はもっともだ、と頷いた。サスケが本当に上忍か、と訝しげに入ってきた彼を見据えていたがはふふ、とほくそえんだ。――忍は裏の裏を読め!外見だけにとらわれていると痛い目を見るよ、とは心の中でナルト、サスケ、サクラに注意した。
 チョークの粉を少し残しているが彼は気にする事もなく、移動した場所で自己紹介をするように進めた。ナルトが先ず彼に自己紹介して欲しいと発言する。なにしろ彼は左目を額宛で隠し鼻の上までマスクで隠している。顔が見ている部分は右目の周りぐらいで、初対面にしては大層怪しい。彼はうーん、と零した後に簡単に自己紹介したが。

 「…結局解ったのって、はたけカカシって名前だけじゃない?」

 サクラの呟きにナルト、サスケが首を縦に振って同意した。

 「俺さぁ、俺さぁ!名前はうずまきナルト!好きな物はラーメン。もっと好きな物は一楽のラーメン!嫌いな物はカップメンにお湯を入れてからの三分!夢は火影を越す!んでもって、里の奴等全員に俺の強さを証明してやるんだ!」
 「次。」
 「…名はうちはサスケ。好きな物、嫌いな物を教える気はない。夢、と言う言葉で終わらすつもりはないが野望はある。一族の再興とある男を見つけ出し、必ず――殺す事だ。」
 「次。」
 「私は春野サクラ。好きな物は…というか好きな人はぁ…。嫌いな者はナルトです!将来の夢はぁ…。」
 「…次。」
 「。好きな物は卵を使った料理で、嫌いな物は特になし。夢は――。」

 は不自然に言葉を切った。どうした、とカカシが首をかしげる。の瞳が一瞬揺らいだのをカカシは見逃さなかった。

 「夢は幸せなお嫁さんになることかな。」

 それいいわね!とサクラはに満面の笑顔を向けて言った。その勢いに思わずうんと言ってしまったは後々サクラの恋話に付き合わされる事になる。

 「さて、我々七班の最初の任務だが――」
 「どんな任務でありますかっ?!」
 「――サバイバル演習だな。」

 拍子抜けしたナルト、サスケ、サクラの表情にカカシが笑う。

 「言っておくが、これはただの演習ではない。合格しなかった者は再び忍者学校に戻される。」
 「ちょっと待ってください!それじゃあ、昨日の卒業試験は?!」
 「あぁ、あれは下忍になれる資格があるかのただの適性テストだ。明日のサバイバル演習が本当の卒業試験と言っても過言ではない。何しろ、下忍になれるのは九名…もしもこの班全員が合格した場合は十名になるわけだが。合格率六十六%の難関だな。」

 はは、とカカシは笑顔を浮かべるが、ナルト、サスケ、サクラはそれどころではない。カカシはひとまず、と言ってプリントを配る。プリントには明日必要なものが記載されていた。

 「今日はこれで解散だ。明日は九時に第三演習場に集合。あぁ、朝飯は抜いて来いよ?――吐くぞ。」

 語尾にハートマークがついても可笑しくないほどのとびきりの笑顔をナルト、サスケ、サクラ、に向けて、カカシは瞬身の術で姿を消した。

 「はぁ、明日ドキドキするね!」
 「え、あ、うん。」

 不安げに頷いたサクラに大丈夫だよ、と声をかけた。サスケは小さく舌打ちして、貰ったプリントをぐしゃりと握りつぶす。ポケットにそれをぎゅっと押し込めると何も言わずに立ち去った。その後をサクラが待って、と追いかける。

 「じゃあ、私も帰るね。ナルト、また明日。」
 「うん、ちゃん、また明日だってばよ!」

 元気良く手を振って駆け出すナルトを見送ってもようやく帰路についた。

 サバイバル演習日当日の朝、はしっかり朝食を摂って演習場に赴いた。一応時間通り九時に行ってみたものの、そろっていたのはナルト、サスケ、サクラの三人で案の定カカシは来ていない。軽く挨拶を交わして、カカシが来るのを待っていた。
 そのカカシがやってきたのは十一時。約束の時間を二時間も過ぎている。ナルトとサクラはカンカンになってカカシを攻め立てる。サスケは静かにしているが内心はどう思っていることやら。

 「ま、過ぎた事を言っててもしかたないでしょ。んじゃ演習を始めるか。此処に鈴が三つある。この鈴を取れたものは合格だ。取れなかったものは丸太行き。――つまり忍者学校へ逆戻りって訳だ。制限時間は十二時。この時計が鳴ったら終了だ。」
 「なぁーんだ!そんなんこの俺にかかったら簡単だってばよぅ!」
 「まぁ、ホラ吹きのドベはほっておいて――」

 カカシがナルトを逆なでする様な発言には頭を抱えたくなった。ドベと言われてナルトは顔を真っ赤にしホルダーからクナイを取り出し投げる構えをする。次の瞬間、ナルト、サスケ、サクラ、の目の前にいたカカシはナルトの背後に現れ、クナイをナルトの頭に固定した。
 あまりの速さにナルト、サスケ、サクラは軽く放心する。

 「――これで信じてもらえたかな、俺が上忍だって事。ようやく俺もお前達の事が好きになれそうだ。それじゃあ、始めるぞ。よーい、スタート!」

 カカシの合図には直ぐに近くの木の上に姿を隠して気配を消した。
 カカシは辺りを見ながらサスケ、サクラ、の気配が消され、上手に隠れている事に頷く。――忍の基本は気配を絶ち、身を潜める事…もっとも、新米下忍のサスケ、サクラは微弱な気配を感じるが、ひとまず合格点だろう。カカシはいそいそとポシェットから本を取り出した。

 「いざ、尋常にしょ〜ぶっ!」
 「…はぁ。あのねぇ、お前忍って何かちゃんと理解してないだろ。…だいぶずれてるなぁ、軌道修正が必要か?」
 「ズレてるのは先生の髪型だろぉー?!」

 失笑するカカシにナルトは真正面から向かう。突進してきたナルトをかわして、カカシは本を広げた。

 「本なんか読みながらでいいのかよっ!」
 「あぁ、大丈夫大丈夫。お前弱そうだしな。」

 カカシは再びナルトを怒らせて、はは、と笑いながらページをめくった。バカにされたナルトは思いつく限り攻撃をするが遊ばれているのと同然だった。終いには川に落とされる始末。はそれを木の上からみてあちゃーと、頭を抱えた。
 川から這い出たナルトは影分身を出して再びカカシに挑む。はナルトの分身が静かにカカシの裏に回ったのを見て笑みを浮かべた。ナルトの攻撃を尻目に本を読むカカシが油断した時、背後を取られて肝を冷やした。

 「へへっ、忍は後ろをとられちゃいけないんでしょ、センセっ!――鈴を貰う前に一発お見舞いしてやる!」

 思いっきり振り上げた拳は、カカシの顔面に当たる事はなかった。文句を言い出したナルトの分身達が殴りあいを始めた事には再び頭を抱える。
 分身を消し、一人に戻ったナルトに残ったのは分身達と殴り合いをした傷だけだった。ふと、ナルトが光るものを目にした。銀色の、丸い――鈴だ!

 「にしし、先生ったらおっちょこちょいだな!鈴を落としていってやらぁ!」

 ナルトは喜んで鈴を拾おうとした瞬間、浮遊感に叫び声を上げた。ナルトは逆さづりにされ、目の前にはカカシがにっこりと笑って立っている。

 「『忍びは裏の裏を読め。』――常識だろ?こんなトラップに引っかかるなんて情け、」

 ――情けない、といおうとしたカカシの言葉は不自然に途切れた。ナルトの目の前で、手裏剣、クナイが右半身に多数刺さっている。

 「うおおおっ、や、やりすぎだろサスケぇっ!」

 ナルトが焦った声を出したが目の前にいたカカシは直ぐに丸太に変わった。ナルトが変わり身だと気づく頃には、カカシはサスケが潜んでいただろう場所に走り出していた。

 

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*20061110*