=伍=
「頼久!」
突然泰明が声をあげた。
表情はいつもと変わらない様見える。が、実際、気を引き締めていることが経験から窺えた。
泰明は流れる様な動作で、呪符を取り出すべく、懐に左手を差し入れる。
察した頼久も柄口に手を添え、を背に庇い、構える。
「えっ・・・ちょっと・・・・・・あの・・」
は当惑していた。二人の頭に目線を往復させるばかりで、なにが起こっているのかさっぱり理解出来なかった。
(でも、怨霊の気配なんてしないし・・・・・・・)
ずっと気を張っていたわけではない。が、京で長く過ごすうちに、気の感知というものがごく自然に出来るようになっていたのだ。
ここには禍々しい空気はまったくない。
(じゃあ何が・・・・)
心臓の、規則的に打たれる鼓動がからだを揺らす。
右は茂み、左はずっと芝の道が続く。
そこに一陣の強い風が吹き、土や草葉の匂いが舞い上がった。
「おや、なかなか可愛いお客さん達だ」
「「「!!!」」」
は勢いよく声のした方向へと顔をやった。
(いつの間にっ!)
泰明と頼久も同じ行動をとっていた。目は見開かれ、間をおいてギリッっという音が聞こえたかもしれない。
驚いた。なにせ声の主は、自分が先程まで目を向けていた芝の道の中央に立っていたのだから。
その人物は三人へと歩み寄ると、2m程の所で止まった。
「ようこそホグワーツへ。如何なる用かの?」
にこやかに話しかける。姿を現した異邦人の老人はとても奇妙な格好をしていた。
ヒョロリと高い背に長すぎる髪。これまた長い髭は持て余されベルトに挟み込まれている。濃い紫のマントを羽織り、鼻の上にチョコンと乗っている半月型のメガネが特徴的だ。
泰明と頼久は互いに一歩前へ踏み出し、冷ややかな目で老人を睨む。後ろ手から見る二人の顔からは、嫌な空気が感じ取られる。
声がするまでどこに居るかわからなかった。いや、見えていなかっただけか・・・。しかしあの泰明殿ですら────
頼久は体勢を低く保ち、すぐにでも飛びかかれる様構えたが目の前の老人に隙はない。さらに驚きが強く、自身が動揺してしまっていることで集中仕切れないでいたのだ。
代わって泰明も、表情に出こそしないものの、少なからず驚いていた。
事実、泰明も声を掛けられるまで視えていなかったのだから・・・・・・。
(一体この人って何者なの?)
見た目はただの派手好きな、変わり者の老人といった所。にもかかわらず、元とはいえ八葉の二人が緊張が解けないでいるのだ。
外見通りとはいかないだろう。
すると、そんなの思案を聞いていたかのように老人が語り始めた。
「儂はアルバス・ダンブルドアといってな、ここの校長をやっておる」
(アルバス・ダンブルドア・・・・・。principalって・・・えっと・・・・・社長とか校長とか・・だっけ?)
京で怠けていた分野の脳を全力で再稼働させ、なんとか言葉を聞き取った。
一度目は驚きで気が付かなかったが、ここは英語圏のようだ。自身、英語は不得手であるものの、まったく出来ないわけではない。が、日本人特有というべきか、外人を目の前にすると〜云々なのである。
状況を話してくれる相手は欲しいが、正直これ以上しゃべり掛けて欲しくは・・・・・・・ない。
「神子」
「は・・はいっ!」
暫く黙っていた泰明が急に声を掛けたので、見事なまでに声が裏返った。
が、そんなを気にするでもなく、泰明は言葉を続ける。
「呪の気配はない。あれは何をしている」
あっ。
言われて気が付いた。当然だ。
高校生のでも名前の時に聞いた言葉しかききとれなかった。だのに、まして"英語"というものに触れたことのない泰明と頼久に理解できるはずもない。
(どうしよう・・・、私平均並にしかできないのに・・・そんな・・直接だなんて─────!!)
しゃべり掛けて欲しくないし、でもここがどこだかわからないままで行動することも危険で、でも理解するには英語力が必要で──────
落ち着いて、ゆっくり話してさえ貰えれば十分に理解できるはずではあった。が、すっかりパニックになってしまった頭ではもう、おはようとこんばんはの区別さえつかないだろう;
嫌な汗は出てくるし、頬は引きつり、目はどこともなく彷徨い、一人狼狽えていた。
『神子』
老人が出てきたことによって忘れ去られていた龍神が、再び声を掛けた。
『我ガ神子、御困リノ様ダガ』
(!!)
もしかして。もしかすると・・・・
「えっと、あの、言葉が通じないんです。ここでは英語っていって、違った種類の言葉を使う場所で──」
『コノ者ガ使ウ語ト同ジデアレバヨイノカ?』
が言い終えるまでに云う。
「そんなことできるんですか?!ホントに??」
『我ガ神子ガ望ムナラバ』
龍神はこう云うが、本当にこんな事が可能なのだろうか・・・。
神という分類に祀られ、強大な力を持つ存在ではあるが、英語まで話せるとは到底思えない。
正直なところ、どうなるのだろうか・・・・・。
───────────────。
何か、頭をすっと下るものを感じた。
ただそれは一瞬のことで、これといって変化という言葉が浮かぶものではない。
「いかがなされたかな?」
??
泰明とも頼久とも違う声。だが、聞こえた言葉は確かに自分が普通に使う日本語だった。
「大丈夫かね?良ければ話をききたいんじゃが・・・」
声の主はもちろん目の前の老人。
『如何カ』
(えっ、なんで?なんで英語じゃなくて日本語が聞こえてるの??)
『神子ヨ。此デ良イノダナ?』
(は・・はい。でもどうしていきなり)
『神子。何時モ我ガ神子ニシテイル様ニシタダケノコトヨ』
普通いきなり校長はないよなぁ;とか思いつつ、突飛な登場してもらいましょ!ってことで。
この時点で二人はダンブルドアに不信感急上昇(笑
ま、もともと安易に人を信用するお二人ではないんで、これくらいで丁度いいかな?
言語に関しては小物設定に詳しく入れたいと思います。 2005.06.01up
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