=四=






「・・・ ・・・子!・・・神子!神子っ!」


声がする。

(あっ、そっか。私倒れて意識を・・・・・・)
音という信号を受け、感覚が戻ってきた。
意識が浮上してきたせいで、眩しい。なんとか陽光ひかりひかり ひかりから逃げようと、頭の向きをずらした。
それでもまだ眩しい。

「んっ・・・・」
「神子殿!お気づきですか。御身体は大事有りませんでしょうか」
声がする方向を見る。が、まだ目が霞んでいて影しか判らない。
それでも、聞き慣れた声。

スルッという衣擦れと共に、の背中に腕が差し入れられ、上体を起こされた。
これによって光の加減が変わり、支えてくれているのが頼久だと判る。そのすぐ隣には泰明が。
からは逆光の為見えにくいのだが、二人は心から安心した表情を浮かべた。
「すみません。・・・・・・また迷惑をかけちゃったみたいですね」
もういいです。と自分で身体を起こした。
山にした膝に身体を預け、スカートの端を手で押さえるようにして座る。
まだ頭はぼーっとするものの、寝起きのそれと変わらないようで次第に視界もはっきりし始める。
春にしては少し温かな風を受け、思い出せる事から何かわからないかと考えていた。

「しかし、ここが神子の居た世界なのか?何故我らが呼ばれた」




「えっ?」



思わず絶句した。
火照っていた体の中を寒冷が駆け抜け、頭が真っ白になる。
覚醒したての頭なのでか、事の異常さに急回転を始めた脳は一時凍結した。
泰明の言葉を聞くまで、当たり前のように二人の存在を受け入れていた為だ。確かに現代へ帰ってきたのならば泰明・頼久がここに居るのはおかしい。
天真や詩紋、蘭も居ない。

それに

(・・・お城?)

焦点を二人から後ろへとずらせば、そこには高い石壁がそび えている。
しかし、日本のそれに見られる木造の棟や屋根瓦は見あたらない。そして西洋風の民家や博物館か何かにしては上に高すぎる建物である。
は風変わりな建物を見つめ、今起こりうる事に頭を巡らせようと事を整理しようとした。
その時────




















リィ──・・・・・・ン





















『神子・・・。我ガ神子ヨ』

「はいっ!!」
心臓が跳び上がった。
今までに話しかけられた事は何度かあったが、ここまで強く、一つの事を考えているとき、いきなり。ということはなかったので反射的な行動だった。
『神子、無事デアッタカ』
「えっ、は・・はい」
驚きのせいで間抜けな受け答えになってしまった。が、そんな空気も嵐の前の静けさで・・・・・・
龍神が出てきたことで横に置かれていた不安が湧き上がってきた。
見えるはずもないのだが、斜め上を向き、声を荒げる。
「・・・・3人は!天真君に詩紋君はどこ?!蘭も!!」
『気ヲ静メヨ』
一度言葉を出してしまえば、次から次へと不安が押し寄せてくる。
「ここはどこなんです?!頼久さんと泰明さんがなんでっ!!」
『待テ』
「みんなは無事なの?なんで私っ」
『待テト言ッテイル。気ヲ静メヨ』
「だって!」

泰明と頼久は、いきなり大声をあげたに軽く驚いたが、己等の主人の本質が龍神の神子であったことに思考を落ち着かせると、繋がらぬ会話に耳を傾けた。


『地ノ青龍、朱雀、黒龍ノ神子ハ無事送リ届ケタ』

よかった。
以前別れたとき、アクラムに天真と詩紋を時空の狭間に落としたと聞かされた。蘭も閉ざされた空間に放置されていたらしい。
そんな思いは二度として欲しくない。
とすると、もしかしてもしかしなくとも・・・・・・
「それじゃあ私だけがここに?」
『済マナカッタ。出口ヘ押シ出ス直前、何者カノ干渉ヲ受ケタノダ』
「干渉って・・・、じゃあここはやっぱり現代じゃない・・・・・・」
『ソウダ』
やっぱり;


「神子、龍神は何を言っている。こちらも話がある」
今まで無言で聞いていただけだった泰明が声をかけた。隣の頼久も軽く頷き、先を促す。


龍神は、を穴に迎え入れた時の事から今の今までを説明した。
普段はにしか聞き取れないものではある、が今回はが龍神に請うたお陰で頼久、泰明も聞き取ることができた。




「では龍神でも予測できなかった、と」
龍神の説明に眉間にしわを寄せ唸る頼久。龍神はしかたがなかったのだと力無く答えた。
『元々京ノ神気ハ弱ッテイタ。其処ヲ鬼ガツケ込ミ、四神等ヲ封ジタ。此デハ神子ヲ届ケル以外ニ気ヲ使ッテオレヌノダ』
「ならば我らはどうやってこちらへ来た」
鋭く泰明が返す。
『其レハ神子ノ力ダ。神子ガ望ミ、神子ガ連レタ』
「私が・・・・?」
『ソウダ。天ノ青龍、地ノ玄武ニ関シテ我ハ関与シテオラヌ』

現代へ押し出す前、だけが道を少しそれていたらしい。龍神は穴を支えるので精一杯、声をかける以外に元の道に戻すことがかなわなかったのだ、と。
直後、三人を送り出したので、を戻そうとした。その瞬間──
時空の穴自体が大きく揺らいだ。
このままでは捻れに巻き込まれてしまう、というところ。最悪の事態を防ぐべく、龍神は穴の安定を放棄し、一時的に封印した。
種の殻の如くに守られたは、安定を失った穴の流れに乗り、現在のこの場所へ辿り着いた。ということだった。


さっきまで意識がなかった上に、いきなりそんなことを言われても正直理解しきれない。しかもここはまったく見知らぬ土地で・・・。
"これからどうすればいいのだろうか"
京に来たときもこんな事を考えていたかもしれない。
そう考えれば以前よりはまだなんとかなる気がする。今ここには泰明も頼久もいる。一人じゃない。
少し気が晴れた気がした。

『今ハ我ニ穴ヲ繋グ力ハ残ッテオラヌ。ガ、時間ヲ掛ケレバ孰レ戻ルダロウ』
「時間があればまた開く事ができるんですか?」
京に居たとき、泰明には今日の日しかないと言われていた。なのに龍神は時間をかければ出来ると言う。
『此方ハ京ト要素ガ異ナルノダ』
要素?穴を開ける為の条件のことだろうか?
「では待つしかないと」
口に指をあて、考え込んでいた泰明は俯いたまま尋ねる。
「ここは京とは(世界が)違うのだな」
『是』
「ではこちらで、以前の力(四神の力)は使えないのか?」
『否。我ガ存在出来ル事カラシテ、使ウ事ハ可能ダロウ。穴ニ関シテハ使ウ力ガ大キイ、併シ他ハ微々タルモノ』
「幾許かかる」
『其レハ神子次第』
「私の?」
『此方ニモ力ノ要トナル所ガ在ル。其処デ力ヲ高メレバ我ニ還元サレワタ ル』
「えっと・・・、それじゃ京みたいに力の具現化とか出来るってわけですか?」
『望ムナラバ』
「現代にしろ京にしろ、ここから動くには時間がいるってことですよね?」
『是』

はぁ・・・、じゃあやるしかないじゃない。かける時間が早いか遅いかは私次第みたいだし・・・・・・。
はゆっくりと立ち上がった。同時に泰明と頼久の方を向き、拳をぎゅっと握る。
淡く、澄んだ緑と山吹,紫苑の瞳がまっすぐにを見据え、見上げる位置まで上がった。
「神子殿、私は神子殿にお仕えする身。いつでもあなたのお側に」
「神子、私はお前と共に在りたいと思う。お前が望む事をかなえよう」
心を読んだかのような二人の言葉。
神子と八葉は龍の宝玉で繋がっている。それでも思いまで届くわけではない。
これは今までに培った絆からくるものだ。
「よろしくお願いしますね」







この光景が映る水晶を見つめる老人が一人、フォッフォッと笑う。
さすがに龍神の声までは聞こえていない。それでも三人の会話から推論し、ある決断を下していた。
老人は椅子からゆっくり立ち上がり、傍らの紅く、美しい鳥へと近づいていく。鳥はキュルルと鳴くと、老人の纏う長い着物にじゃれついた。
「今年はなにやら忙しくなりそうじゃて」
目線を鳥の高さにあわせ、にこやかに話しかけた。

「では、そろそろ迎えに行こうかの」
先程までの表情とはうってかわって、覚悟を決めたような鋭い目。ローブを曳き老人は扉の向こうへと消えていった。





これアップするのにすんごい時間かかったよ;;

さてさて、辿り着きました。変な老人登場です(笑
うちが思いつくノーマル話は、なぜかギャグに行きやすい傾向。妄想なら痛いくらいなんだがなぁ(え
とりあえず泰明さんと頼久さんは→神子なんでw                          2005.05.19up