は言われた通りに行動した。
 東京タワーの展望ラウンジは神聖ブリタニア帝国が日本にどう攻め入り、どのように制圧したのか、その後はどのように歩んできたのか、など7年前の出来事の写真や年表が展示されていた。フロアにいるのは殆どブリタニア人で、イレヴンはいない。…いや、2、3人程いただろうか。パネルを見る赤い髪の学生を盗み見ている。

 「(彼らがレジスタンスね…ルルーシュはカレンに一人で来いと言っていたけど。それにしても、レジスタンスはレジスタンスか…仏頂面で何度も盗み見るなんて疑ってくれ、といってるようなものよ。)」

 は一般人を装い、インフォメーションカウンターに携帯電話を落し物として届け出た。
 役目は終った、とは東京タワーを後にした。シンジュクゲットーに行きたい、とこの世界へ来て二日目に考えた事を再び考える。そこには、救命ポッドがあるはずなのだ。何かしら、元の世界へ戻るヒントが残っているかもしれない。しかし、東の空からは夜の帳が降りてくる。
 は"コーディネイター"であり、日本人でもブリタニア人でもない。しかし、この世界での見た目はどうやらブリタニア人らしい。それは黒髪、黒い双眸でない事が大きい。だからこそ、ゲットーへは一人で行くなとルルーシュに念を押された。確かに女が一人で行くような場所ではないだろう。仮にもブリタニア人に見られているのならばなおさらだ。しかし、はそこらにいる一般人ではない。きちんと訓練を受けた軍人だ。もっとも、この世界へ来てからは訓練も怠ってはいるが、銃の手入れだけは欠かしていない。早く帰りたい、という気持ちもあるが、今のままでは帰ってもこちらの事が気になってしまう。

 「せめて、こちらとあちらを繋ぐものがあればよかったのに…。ラクスにあげたハロをもう一つ作っておけばよかった…そうか、」

 こちらでハロを作って、ラクスが持つハロ――ルルに番号をあわせて通信を試みれば良い。どうしてもっと早く気がつかなかったのだろう!とは叱咤しながら、自分のひらめきに心を躍らせ、軽い足取りで学園へ戻る道を駆けていった。
 クラブハウスの自室に戻るとはすぐに設計図を製作した。元はアスランが製作したハロの設計図だが、それを再び設計しなおし、一回り小さいハロにしたのはだ。簡単に思い出せる。必要なパーツなどもスラスラと白い紙に書き出していき、それは直ぐに完成した。後はルルーシュが帰宅したらどこで部品を入手できるか聞けばいい。ただ、問題は金銭の事だった。ここでの生活はすべてルルーシュが出している。これ以上甘えることは出来ない。

 「…学生でもアルバイトは出来るのかしら。」

 それも、ルルーシュが帰ってくるまで解らない。
 リビングへ行くと、ナナリーが一人折り紙を折っていた。咲世子は少し席を外しているようだ。

 「さんですか?」
 「ただいま、ナナリー。すごいね、どうして私だと解ったの?」
 「足音で。お兄様とはまた違いますから。」

 折り紙から顔を上げ、がいるであろう方向を見る。はナナリーの向かいに腰をかけた。

 「ナナリーは何をしているの?」
 「折り紙です。咲世子さんに以前教えてもらったんです。日本人って器用なんですよ、紙を何度も折ることで、鳥や、船や、飛行機も作ることが出来るんです。あ、さん、これを見てください。」
 「鳥?」
 「えぇ、鶴だそうです。この鶴を千羽折ると願いが叶うそうですよ。さんは何かお願い事ってありますか?」
 「私?…そうね、誰も悲しまなくていい、みんなが笑顔で暮らせる、そんな世界が欲しい。」

 は自分の掌を広げて見つめた。16歳の少女の手にしては肉刺だらけで、つぶれた痕もいくつかある。いくらハンドクリームなどで手入れをしていても、銃を手入れする時のオイルなどでどうしてもかさついてしまう。そして、この手はもう、血に染まっているではないか。

 「…さん?」
 「なぁに、ナナリー。」
 「い、いえ。なんでもないです。」

 ナナリーはが願い事を寂しそうに言った事に困惑した。まだ知り合って一週間も経っていないが、こんなにも悲しそうなは初めてだった。
 軽い気持ちで願い事を聞いたナナリーはの思わぬ反応で黙り込んでしまった。はなんでもない、というナナリーに首をかしげ、言葉を発する事が出来ず、二人の間には気まずい雰囲気が流れていた。

 「…スザクさん、大丈夫ですよね?」
 「ナナリーも彼の事を知ってるの?」
 「はい。お兄様とよく遊んでいらしゃって、その時に私も。…私も、という事はさんもスザクさんをご存知なのですか?」
 「えぇ。この間公園で男達に絡まれたとき、助けてくれたのが彼で。」
 「スザクさんらしいです。」

 くす、とナナリーが笑ったことで、先程の気まずい雰囲気はどこかへ行ってしまった。しかし、ナナリーの表情は晴れず不安そうだった。はどう声をかけて言いか解らず、うろたえるしか出来なかった。ルルーシュ、早く帰ってきてあげて、と念じるばかりだ。
 できるだけ明るい話題を、とテレビをつけても、どの番組もクロヴィス殿下殺害容疑者についてで、余計に気分が滅入った。

 「さん、すいません。気を使わせてしまったみたいで。」
 「ううん、気にしないでナナリー。月並みな慰めしかできなくてごめんね。でも絶対、スザクは無実だよ。あんなに良い人が人を殺すなんて筈がないもの。」
 「はい…、そうですよね。」

 は部屋に戻ります、とナナリーを見送るしか出来なかった。も自室へと戻り、机に広げていた設計図を手に、ラクス、と呟く。

 「こんな時、あなたならどうするかしら…?」

 ふわふわしてて、ときどき的外れな事を言って周りを困らすピンクの妖精さん。けれど、本当は根元の部分でしっかりしてて、一途で頑固なのを私は知ってる。そんなあなたはこんな時、どうするの?

 星の降る場所で
 あなたが笑っていることを
 いつも願ってた
 今遠くても また会えるよね

 ベッドの上で壁に靠れながら窓の外を見上げ、ラクスがよく歌う歌を口ずさんでみる。不思議と気持ちが軽くなった気がした。は瞳を閉じて歌い続ける。そして、そのまま暗転した。
 気がつくと窓の外は白ずんでいて、寝ぼけ眼で時計を確認すると朝方の5時を過ぎたところだった。昨日の夜のままの体勢で寝ていたせいで、少し腰が痛い。大きく伸びをして、目を覚まさせようとタオルと着替えを手にシャワールームへ向かった。
 熱いくらいのお湯をかぶって、シャワールームから出ると、眠たそうに目を擦るルルーシュと鉢合わせした。

 「おはよう。」
 「あぁ。」
 「昨日何時に帰って来たの?」
 「早めに返って来たつもりだったがリビングにはもう誰もいなかった。」

 ならだいたい8時過ぎくらいか、とは判断した。

 「ナナリーの傍に居てくれていると思っていた。」
 「最初は一緒に居たわ。けれど自室に戻るって言われて、一人にした方がいいのかと思ったの。」
 「…そうか。」
 「何かあった?」
 「いや。いいんだ、気にしないでくれ。…今日の事だが。スザクを軍事法廷へ移送するのは19時だそうだ。お前はカレンと一緒に御陵車に乗ってくれ。」
 「了解。後は?」
 「スザクを救い出した後、橋から飛び降り、下に準備している列車に乗り込みゲットー方面へ。スザクを仲間にする。」
 「…軍に籍を置いたままだと、敵対することになるものね。」

 あぁ、とルルーシュは少し疲れたような表情で頷いた。は声をかけようかとおもったが、結局何も言わずそれじゃあまた後で、と自室へ向かった。
 自室で教科書を読んで時間を潰し、制服に着替えてリビングへ行くと既に朝食の準備が出来ていて、本来の部屋の主は二人とも席についていた。
 いつもより静かな朝食を終えて、それぞれが授業へ向かう。もルルーシュの後についていきながら教室へと向かった。そういえば、とは鞄から一枚の紙を取り出してルルーシュを呼び止めた。

 「ルルーシュ、この材料がどこで売ってるかしらない?」
 「…租界の電気関係の店に行けばあるんじゃないか?こういうのはニーナが詳しいはずだ。」
 「そう、ニーナに聞いてみるね。」
 「何を作るんだ…?」
 「ハロを作ろうと思って。」
 「何だって?」
 「ハ・ロだよ。アスランって…あちらの友達が開発したの。これくらいの大きさで、」

 が説明し始めたのをルルーシュはふぅん、と右から左へ聞き流した。興味の無いことは聞くだけ聞いておいて、あとはどうでもいいらしい。
 そんなルルーシュの態度にも目もくれず、はハロがいかに素晴らしいかを教室に辿り着くまで延々とルルーシュに説いて聞かせた。教室に辿り着き、ルルーシュが自分の席に着いた頃にはすっかり脱力して机に突っ伏してしまいリヴァルにどうしたの?と聞かれ、は苦笑するしか出来なかった。
 しっかり授業を受け、放課後は生徒会室へ行く。昨日のような書類の山に出迎えられるのは困るが、今日は生徒会室へ行くのが楽しみで仕方が無かった。生徒会室にはニーナがいる。クラスの違うニーナとは、生徒会活動くらいでしか出会うことが無い。

 「こんにちわ。」
 「〜!待ってたわ、今日はこの書類を…!」
 「うっ、会長…これって。」
 「シャーリーの思ってる通り、だと思う…。ミレイちゃん、を使って今までの保留にしていた仕事させるつもりみたい…。」
 「きょ、今日は用事があるから、できる限り…でイイデスカ?」
 「もっちろん!期待してるわぁ。さぁ、みなの衆、ばかり頼らないで仕事仕事!」

 生徒会室の扉を開けて、、リヴァル、シャーリーは言葉を失った。机の上に積み上げられた書類の山、山、山!嬉々としてを部屋へ迎え入れ、パソコンの前に座らせるとはいこれ、と書類の山と一つ置いた。そのすさまじさに、思わず全員が言葉をなくす。はしょうがない、と息を一つ零して書類を一枚手に取った。全体を流し読みして、これも昨日同様にパソコンの方へ入力していけば良いらしい。一度何かを始めてしまうと周りが見えなくなるので、その前に、とはニーナに声をかけた。

 「ねぇ、ニーナ。この部品が売ってる店を知らない?」
 「え?」
 「今朝ルルーシュに聞いたら、ニーナが詳しいって教えてくれたの。」
 「この紙、見せてもらうね。…設計図とかあるの?」

 うん、とは頷いて鞄から設計図を取り出し、ニーナに渡した。興味があるのか、ミレイ、リヴァル、シャーリーもそれを覗き込む。

 「え、すごい、この設計!が考えたの?」
 「原案を考えたのは友人だけど。」
 「原案って事は、この設計図はが?」
 「えぇ。原案のいらない機能とか省いて、付け加えたりしたのは私。」

 ニーナは目を輝かせながら、設計について質問しては納得して、質問しては考えて、などを繰り返した。とニーナの話に他の三人はついていけず、しぶしぶ作業に戻った。

 「ねぇ、これを作るところ私も見ていい?」
 「えぇ、もちろん。」
 「だいたいの部品は私が持ってるのをあげる。けど足りないのが幾つかあって、それが店でも売ってないようなものがあるみたい。」
 「そうなの?」
 「ミレイちゃん。うん、これとこれなんだけど…。多分、これは軍が所有してて一般には出回ってない部品なんだと思う。」
 「なぁんだ!そんな事か。それじゃあこのミレイ様にまっかせなさぁい!」
 「そんな、いいの?ミレイちゃん…。」
 「もちろんよ。出来るだけ早く手に入れてあげるわね!その代わり、出来たら必ず私達にも見せるのよ、。」
 「ありがとう、ニーナ、ミレイ会長!」

 ニーナが含みのあるような心配をミレイにした事には少し首を傾げたが、部品を全て揃えてくれるとい二人に素直に感謝した。いつの間にかルルーシュも生徒会に顔を出しており書類の山をみて、顔を引きつらせていた。何の話だ、とルルーシュがリヴァルに尋ね、リヴァルはの設計図が、と話し始めるとあぁ、と納得した。

 「ところで、これは完成すると何になるの?」

 設計図を見てもわからないもの、とミレイが言うとリヴァルとシャーリーもうんうん、と大きく頷いた。ルルーシュはなんだか嫌な予感がした。は満面の笑みで。

 「ハロよ。」

 その場の時が一瞬止まったかのような錯覚を起こさせた。設計図を見て解るニーナが慌ててこれは小型の通信機のような物でとフォローする。
 それじゃ何かわからないんだよ、と誰か突っ込んでくれ!と朝の悪夢が蘇る一歩手前を目の当たりにしたルルーシュは内心で激しく訴えた。

 

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*20070910*