騒がしい学校生活とは打って変わって、は静かに継ぎ接ぎだらけの車の助手席に座っていた。運転席には赤い髪を外はねにして活発なイメージを与える紅月カレンが座っている。紅月カレンとは、カレン・シュタットフェルトのもう一つの名前だ。彼女はブリタニア人と日本人の間に生まれた子供らしい。 「(あちらの世界で言えば"第一世代コーディネイター"という立場か。…キラ…。)」 二人の間に会話はない。は頭の中で何度もシュミレーションをしていたが、カレンは緊張、不安、恐怖といった感情に悩まされているようだった。加えて、の存在だ。 「心配する事はないわ、カレン。ゼロ…彼に任せておけば上手くいくから。」 の言葉にカレンはぐ、と唸り反発しようと口を開いたが、結局何も言わずに前に向き直った。も前を向く。――時間だ。 「行くぞ。」 カレンの言葉に返事して、車は動き出した。 「出て来い!殿下の御陵車を汚す不届き物が!」 ジェレミアの言葉に用意してあったスイッチを押し、幕を燃やした。その後ろにはゼロが控えている。 「私は、ゼロ!」 ゼロ?と軍人、国民が繰り返し名前を呼ぶ。しかし、スザクを助ける為に何者かが現れるのは予測していたのか、ジェレミアは特に慌てる様子も無く銃を一発空に向けて撃ち、空で待機していたナイトメアが御陵車を囲んだ。ひっ、と小さくカレンが悲鳴をあげ、は震えるカレンの手に自分の手をそっと重ねた。 「ゼロを信じて、カレン。」 は作戦行動前、ルルーシュに消して正体をばらすな、と言われていたがバイザーを外してカレンに素顔を見せた。カレンの瞳が大きくなり、を見据える。は直ぐにバイザーを元の場所に戻した。 「…っ?!」 カレンは驚きのあまりに何も発せないようだった。 「な、らば…は、」 カレンは小さく頷いては、と続けた。 「ゼロの正体を知っているのか?そ、それよりも!ブリタニア人であるが何故!」 がカレンから前方へ視線を移したのと同時に頭上から合図がある。カレンははっとして車をゆっくりと動かした。 「私達を全力で見逃せ!そっちの男もだ!」 は不敵に笑って見せ、スザクが拘束を解かれてナイトメアと車の間でゼロを向き合うと、カレンを促して車を降りた。ゼロの一歩後ろに控え、時間だと声をかける。 「では、話は後だ。」 ゼロは遠隔ボタンを押し、毒ガスが入っていると思わせたカプセルから紫煙を噴出させた。突然、正体不明の物体が煙を上げたことで国民達はパニックになり、悲鳴を上げて逃げ惑う。その混乱に乗じて、ゼロはスザクを固定し橋を飛び降り、とカレンもそれに続いた。発砲してくる敵の弾を、弾道を見切った分だけが打ち落とすと、後ろから息を呑むのが解った。前方の敵も恐らく目を見開いて今のを見ていただろう。もっとも、彼らはナイトメアの中にいて、外から表情を見ることは出来ないが。 「二人きりで話したいことが。」 は一度ゼロを見た。彼は何故、と心の中で尋ねている事だろう。はいいわよ、とカレンに返事をした。 「でも、少し待ってもらえる?枢木スザクの首の拘束具を外してから。」 カレンは頷き、はゼロに向き直ってホールへ進むように促した。ゼロに促されてスザクもホールへ足を出す。しかし、彼の視線はに向けられていた。 「あ、りがとう…。ねぇ、君はあの時の――?」 はスザクの問いに答えもせず、ホールから出てエントランスに向かった。ルルーシュは何も言うことなくを見送り、スザクへと視線を移して、本来やろうと思っていた事を言い始めた。 「カレン、」 カレンを引き止めた男はちっ、と小さく舌打ちして何も言わなくなった。カレンが大丈夫、とは言ったものの、心配で仕方が無いのか。それもそうだ。彼らにとって、顔を見せないは怪しい人物この上ない。 「急かすようで悪いけれど、話って?」 が指摘するとカレンはそれだけで?と目を見開いた。 「自分では、結構上手に演技できていると思ってた…。気をつけるわ。」 は重ねてカレンに願い出た。カレンは是とも否ともいえない表情をしていたが、やがて努力はしてみる、と妥協してくれた。それだけで、今回の収穫は大きい。 「、どこだ。」 話し合いが終ったのか、ゼロが出てきてを呼んだ。はバイザーをつけて個室から顔を出し、ゼロに自分の場所を示す。 「それじゃ、カレン。また明日。」 は声をかけてゼロの元へ駆け寄った。カレンもの後を追うように個室を出て、レジスタンスと合流する。出て行こうとするゼロとにレジスタンスから制止の声がかかったが、軽く顔を向けるだけで何も言わずにその場を去った。 「何故、カレンがお前を呼んだ?」 えぇ、とは頷く。二人の会話はごく静かに行われ、喧騒の街並みで誰も気にする者はいない。二人を見ただけでは、ただ静かに歩いているだけのようにも見える。 「もう一つ。という名前。この間、シンジュクゲットーでナイトメアを奪うときとっさに出した名前だったけれど、実は愛称なの。ルルーシュは知らずにコードネームにしたようだけど…。この名前でスザクに会っている。」 ルルーシュはの話を聞いて、そうか、と小さく呟いただけだった。心中ではの頭の回転の速さに舌を巻いていた。遺伝子を少しいじるだけでここまで違うのか、と思うと少しコーディネイターという存在が妬ましく感じられる。 「ルルーシュ。私が元の世界に戻る方法の事だけど。」 がようやくルルーシュに視線を向けると、彼も前方からへと視線を移した。しかし、その表情は言い難そうに歪められていて、はあまり良い返事は期待できそうにないな、とだけ思い、ルルーシュの言葉を待った。 「あそこの場所は解っているが、行っても何も残っていないと思う。お前を見つけた場所で俺はC.C.を追っていた軍に包囲されていた。その時にお前が落ちてきて、その後あの容器を運んでいたトラックが爆発した。地下だったし、埋もれてしまっている可能性が高い。」 これで完全に、この世界と元の世界を繋ぐものは、当時が身につけていたものと、この身一つだけだ。 「地道に調べるしかなさそうだな。C.C.が何か知っているようだが、」 はぁ、とルルーシュとは小さく息を吐いた。 「まぁ、俺はお前が少しでも長くこの世界にいてくれる事を望むがな。」 その時は保険金を沢山出すよ、とふざけて言うルルーシュにはよろけたフリをして思いっきりルルーシュの足を踏んでやった。あ、ごめん、とワザとらしく謝るとルルーシュも負けじとの足を踏み返してきた。 「〜っ!あなた、それでも男なの?!」 ふふん、と見下ろしてくるルルーシュを見据え、はいつかぎゃふんと言わせてやる、と心に決めた。
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