白いナイトメアから逃れ、ルルーシュとは機体から降りた。ルルーシュにとっては数時間ぶりの、にとっては初めてゆっくりと感じた地上だ。プラントも地球に似せて重力を発生させてはいるが、生活場所は主に宇宙空間の戦艦の中だ。 「やれやれ、ようやく検問だな…。おい、行くぞ。俺についてこい。」 ルルーシュが数人の軍人に向かって、服を脱げ、などと不躾な命令を下したにも関わらず、軍人達はわかった、とその場で服を脱ぎ始めては赤面して慌てて視線を外した。隣でルルーシュがふん、と鼻を鳴らしたのが聞こえたが、それは聞こえなかったフリをした。 「どういうこと?」 が何度尋ねても、ルルーシュの返答は今は言えない、だ。 「バトレーか?何をしている、早く行かんか。」 ルルーシュはヘルメットをつけたまま、上座に座る男に銃を突きつけた。 「私が何者か正体を明かす前にやってもらいたいことがあります。」 ヘルメットの下ではルルーシュがにやりと笑っているに違いない。 「もういいのか?」 ルルーシュは薄暗くなった部屋でようやくヘルメットを脱いだ。クロヴィスと名乗った男はん?と訝しげに眉を寄せ誰だ、と問い詰めた。ルルーシュが一歩前に出て、顔を見せるとクロヴィスは目を見開かせた。 「ル、ルルーシュっ?!」 息を飲んだのはだったのか、クロヴィスだったのか。 「お、お前は、七年前に…、」 ルルーシュは、跪いた姿勢から再び立ち上がり、銃を突きつけクロヴィスに近寄る。先程の余裕のある表情から、一変して、クロヴィスの表情には焦燥が感じられた。 「や、やぁ、嬉しいよ。君が生きているという事はもちろんナナリーも、」 また外交の道具とするつもりか?と、ルルーシュは至極冷めた目でクロヴィスを見下ろし、言い放った。クロヴィスは息を呑んだ。思い出させるかのようにルルーシュは自身がこの地へ送られるハメになった理由を言う。 「母さんを、殺したな!」 ルルーシュが誰だ、ともう一度問い詰めると、今までおびえていたクロヴィスは椅子に靠れ直し、ゆっくりと口を開いた。 「第二皇子シュナイゼルと、第二皇女コーネリア。彼らが知っている。」 クロヴィスが二人の名前を言うと口を噤んでしまい、ルルーシュは落胆したように呟いた。クロヴィスは再び目の前の銃口に焦り、私じゃ無い!と叫んだ。ルルーシュは静かに銃口を下ろし、わかった、と頷いた。その様子にクロヴィスはほっ、と胸を撫で下ろす。 「しかし―――、」 ルルーシュは再び、銃口をクロヴィスに向けた。はぎょっとして目を見開いた。 「なっ?!何をするつもりだ!は、腹違いとはいえ、実の兄だぞ?!」 は慌てて、ルルーシュとクロヴィスの間に割り込み、クロヴィスからルルーシュを少し遠さげた。の後ろでクロヴィスが小さく息をついたのがわかる。ルルーシュはそれが癇に障った。 「お前には関係ない。そこをどけ。」 ルルーシュが銃を構えなおし、照準をクロヴィスに向けた。は慌てて銃をだし、動くな、と叫んだ。 「私の、射撃の腕はさっき見たでしょ。」 はぐ、と息を呑み、ルルーシュはにやり、と唇を吊り上げる。クロヴィスはただ、の後ろで息を潜めるようにして事の成り行きを見守っている。 「…フン、覚悟が無いならでしゃばるな!」 ルルーシュはトリガーを弾いた。それを見たもトリガーを弾いた。だが、銃声は一つしかせず、ひぃっ、と引きずった声を上げたのはクロヴィスで、うっ、と声を上げたのはルルーシュだ。銃が後方へ飛び、の銃口からは小さな煙が昇る。 「貴様!」 ルルーシュはぎり、と唇を噛んだ。ここまで来て、邪魔されるとは計算外だった。異世界から来た軍人を信じるなんて、どうかしている。自分の行動を悔いたが、ルルーシュは床に視線を落とし、小さな声でわかった、と呟くように言った。 「どうして…?」 力強く言い放つルルーシュに向き直り、は手を上げた。パン、と音が響き、ルルーシュの頬に赤い痕がついた。 「何のつもりだ?この世界の情勢も知らぬ人間が。」 は、床に転がっていた銃とヘルメットを取り、退室しようとすると、待て、と制止を掛けられる。肩越しにルルーシュを見て、何?と尋ねた。 「お前はもう俺の共犯者だ。勝手な行動をすることは許さない。俺の目の届く範囲で監視する。」 は、口をつぐんだ。元の世界に戻るあてなど、あるはずが無い。本来であれば救命ポッドの中で数日を過ごし、延命装置が切れて死ぬ運命にあったのだ。そもそも、この世界に紛れ込んだこと事態が奇跡である。 「…ないわ。」 ニヒルな笑みを浮かべて、ルルーシュはを見据える。確かに、よく知りもしないこの世界で頼れるのは目の前にいる男以外にいない。別に探すとしても、自分の経緯を話せば精神科へ連れて行かれるのがオチだろう。だが、一刻も早く、元の世界に戻りたい。ラクスは無事でいるだろうか、アスランと、アスランの友達だというキラは傷つけ合っていないだろうか。 「―――わ、かったわ…。ただし、私は人を殺さない。敵であっても、味方であってもだ!」 先程、といわれ、ルルーシュは顎に手をあて考えるフリをしてみせ、わざと声に出しての羞恥に歪む表情を引き出そうとしたが、それはによって打ち込まれた銃弾によって失敗に終った。
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