スザクを助けた翌日、登校すると案の定クラスはゼロの話題で持ち切りだった。が自分の席につくと女子生徒が集まりゼロの話題を持ち出す。それに対しては当たり障りの無い返答をしながら話は徐々に女子特有の話へと移っていった。
 午前中の授業を受け、午後は体調が悪いといって早退したが、実はパソコンでニュースをクラスメイト達と見ていた時、スザクの釈放を知ったのだ。スザクが連行された時、が傍にいた。だからがスザクを迎えに行くのも不自然ではない。――がレジスタンスと一緒にいた""とはスザクは知らないのだ。カレンに呼ばれた時になんとなく気がついているようではあったが、その点に関してはが知らないフリをすれば良いだけの話だ。はクラブハウスの自室に戻り私服へ着替えると政庁へと向かった。
 が辿り着いた頃、ちょうどスザクが政庁から出てくる所だった。

 「スザク!」
 「え…?あ、。」
 「スザ…上っ!」
 「え?」
 「どいて下さい〜っ!!」

 が叫ぶと、スザクはぽかんとした表情で上を見上げた。そこにはピンクの髪をなびかせ、落ちてくる女性。わぁっ、とビックリしつつもスザクは女性を受け止めた。はほっと胸を撫で下ろした。二人とも、怪我もなく無事のようだ。

 「大丈夫ですか?」
 「えぇ。ごめんなさい!まさか下に人がいるとは思わなくて。」
 「僕も、上から女の人が降って来るとは思いませんでした。」

 ピンク色の髪の少女は、目をまん丸としてスザクを見据えた後、にこりと微笑んだ。その笑みに、は元の世界の彼女を思い出した。

 「どうか、しましたか?」
 「…はい!どうかしたんです。実は私、悪い人に追いかけられていまして、だから、助けてくださいませんか?」

 はい?とは心の中だけで突っ込んだ。
 は、スザクの無事さえ確認できればそれでよかった。機会があれば少し話ができれば、とも思っていたが…。どうしてこんな展開になったのだろうとクレープを少しずつ食べながら思った。――今、ユフィと名乗ったピンク色の髪の少女と、スザクと三人でクレープを食べながら街を歩いている。

 「とスザクはお知り合いなのですか?」
 「えぇ、私が本国からこちらへ来た時に彼に案内していただいたの。その時に彼が軍の方に拘束されたものですから、心配で。」
 「ごめん、。君に心配させて。」
 「謝らないで、スザク。誰でもあんな事があったら心配するなって方が無理よ。それに、私はスザクが無実だって信じてた。だから無事でとても嬉しい。」

 スザクが照れたように微笑み、それを見て、もユフィも微笑んだ。
 街をゆっくりと見回りながらたわいのない話をする。スザクがところで、と話を切りだした。

 「ユフィ、先程はどうしてあのような嘘を?」
 「にゃあ。」

 え、とスザクとがユフィを見ると、彼女は怪我をしたネコににゃあ、にゃあと話しかけている。その様子が、あまりにもラクスを思い出させ、は少し憂いを含んだ眼差しで見据えた。ラクス、と呟いて、ユフィを見つめる。彼女は今、無事なのだろうか。
 そんなを横目で気にしつつ、スザクはユフィの方向へ近づいた。彼女はネコを抱き上げ、スザクへと向ける。彼がネコを撫でようと手を伸ばした。ネコは勢いよくスザクの指に牙を立てる。

 「…っ!」
 「あら。」

 はそんな二人の様子を木陰から見つめていた。二人を見ていると、思い出すのはクライン邸の、ラクス自慢の庭でおしゃべりをするラクスと彼女の婚約者。…少しだけ切なくなった。

 「、ネコの傷薬を買いに行こう。」

 スザクに呼ばれ、はいつの間にか下を向いていた顔を上げた。具合悪い?と首を傾げるスザクに大丈夫、と答え、同じ様に心配そうな表情をするユフィに笑みを向けた。
 ネコのための傷薬を買い、適当な広場で手当てをする。スザクが手を伸ばすとネコが威嚇したので、ユフィとの二人で手当てを行った。

 「上手だね。」
 「まぁ、は慣れていますのね。」
 「よく怪我する友人がいたから、必然とね。…よし、出来た。」

 軍のアカデミーで救護も学んだなどと、いえるわけが無かった。こちらの世界へ来てからずいぶんと嘘が上手くなったように思う。よく怪我をする友人がいたのは本当だが。スザクとユフィがそんなの嘘を疑いもせず納得している事に少し罪悪感を覚えたが、気にしないように努めた。改めてスザクがネコに触れようと手を伸ばしたが、ネコは威嚇してどこかへ行ってしまった。

 「ネコ、お嫌いなのですか?」
 「僕は好きなんですけど、片想いばっかりで…。」
 「片想いって優しい人がするんですよ。」

 そう、ですか?とスザクはユフィに聞くと、ユフィはえぇ!と自信を持って答えた。はそれを聞いて、心の中で否定する。――そんなことない、と。はだんだんこの場にいたたまれなくなってきた。ユフィを見ると嫌でも思い出す彼女。全く違う人物なのに、どうしてもラクスを連想せずにはいられなかった。元の世界へ戻る方法は手がかりも掴めない状態で、焦燥感だけが募っていく。部屋に戻って落ち着こう、とが帰宅を告げようとすると、ぐい、と手を引っ張られた。

 「!もう少し私に付き合ってくださいな!」
 「え、」

 帰ります、という言葉は結局の口から零れることなく、ユフィに引っ張られて再び街の喧騒へと紛れていった。
 だいぶ租界を知ったといっても、もエリア11へ来たところということでスザクが案内をする事になった。以前通った道を歩き、ときどき休憩しながらめぼしいところを案内し終えるとユフィがもう一箇所案内してくれませんか、と申し出た。

 「なんなりとお申し付け下さい、お姫様。」
 「では、スザク。私に、シンジュクを見せてください。」

 え、とスザクとの声が重なる。シンジュクは、先日の命令で壊滅状態だ。今ではイレヴンも殆ど寄り付かない、死んだ街と化している。ユフィはスザクをしっかりと見据えてもう一度、シンジュクを見せて下さい、と言った。
 まさか、こんな形でシンジュクへ来るとは思っていなかったは、意表をつかれた表情でシンジュクを見据えていた。以前、スザクにシンジュクへ連れてきてもらおうとした時は、毒ガス騒動の直ぐ後だった。毒ガスではないとは知っていたが一般人を装っていたが強引にシンジュクへ来る事は叶わず、諦めた。二度目も来る事が出来ず、ルルーシュには救命ポッドは埋もれているだろうと告げられた。今自分の目で見て、ルルーシュの言っていた事は正しいと認識する。酷い有様だった。は心のどこかで手がかりを探せるのではと期待していたが、諦めるしかなかった。
 三人は廃墟の街を歩いた。簡易の墓にはギュッと目をつぶって、顔をそらせた。

 「シンジュクゲットーはもうお終いです…。やっと人が戻り始めたのに。」

 スザクが言う。は再び墓へと視線を移し、手を合わせた。そこへ、この場所に不釣合いな声が聞こえてきた。三人がそちらを向くと、アッシュフォード学園の制服を着た男子学生が二人、興奮した面持ちで弾痕を検証したり、写真に収めたりしている。憤りを感じずにはいられなかった。
 が声を出そうとした時、また別の声が割り込んだ。は目を見開く。彼らは、カレンと一緒に居たレジスタンス!それに、カレンとが二人で話すことに一番反対していた玉城という男ではないか!

 「とユフィはここにいて!」
 「スザクっ、」

 待って、とが言う前にスザクは走り出し、彼らのところへ行ってしまった。ユフィと顔を見合わせ、とユフィも向かう。
 がスザク達の姿を確認できるところへ来た時、スザクは玉城の手を避け、サングラスが外れたところだった。枢木、スザク、と玉城が呟く。

 「何しに来たんだよ、ブリタニアの奴隷が!プライドも仲間も魂も売り渡して、それでも日本人かよ!」
 「止めて!」

 気がつけば、は玉城とスザクの間に割り込んでいた。スザクに殴りかかろうとして振り上げた手を玉城は止める事が出来ず、の左頬に当たる。はその勢いにバランスを崩したが、スザクに受け止められた。

 「!」
 「?! …、だと?」

 、と呼ばれた少女を、玉置達は目を見開いて見据えた。は左頬を押さえながら、玉城を見据えて、止めてくださいともう一度言った。

 「同じ日本人同士じゃない!どうして、そんな、」
 「そいつは日本人なんかじゃねぇ!日本を裏切った、裏切り者だっ!」
 「おい、もう行こうぜ。」
 「ちぃっ! …お前、本当になのか?」
 「どういう、意味ですか?」
 「なんでもない。」

 すまなかった、と玉城はバツが悪そうに小さい声でに向かって言い、スザクや、学園の男子学生達に向かっては悪態吐いて去っていった。

 「スザク、、大丈夫ですかっ?!」
 「僕は。でもが…、」
 「私も、大丈夫だから、」
 「大丈夫じゃねぇよ!僕のカメラが!!」
 「なんでもっと早く助けに来ないんだよ!お前ら名誉を誰が養っていると思ってるんだ!」

 助けてもらっておいて、どんな言い草だ!はとうとう我慢できなくなり、支えてもらっていたスザクの手を振り払うように離し、男子生徒に向かってにこりと微笑んだ。

 「あなた達、隣のクラスのハリー・ドュークとリディ・マースでしょう?」
 「ど、どうして名前を…、」
 「お、お前!先日転校してきた、噂の!」

 目を丸くしてを見つめる二人に近寄り、二人だけに聞こえるようには声を低くして言った。

 「どんな噂があるのか存じませんが。…それよりも。帰り道、背後に気をつけて。月夜ばかりだと思わない方が身の為よ。」

 にっこり、と笑顔を彼らに向けると、彼らはひぃ、と小さく悲鳴を上げ、ごめんなさいと情け無い声を上げながら逃げるように去っていった。

 「…彼らに何を言ったんだ?」
 「お知り合いでしたの?」
 「ちょっとね。―――彼らは同じ学園の者でしたので顔と名前だけですが。あんな方とお知り合いにはなりたくないものです。」

 にこりと笑ったままのに、スザクは少し引きつった笑みを浮かべた。ユフィはの笑顔の裏に気がつかないのか、的外れな質問をして、返って来た答えにそうですか、と納得していた。

 

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*20070916*