スザクを助けた翌日、登校すると案の定クラスはゼロの話題で持ち切りだった。が自分の席につくと女子生徒が集まりゼロの話題を持ち出す。それに対しては当たり障りの無い返答をしながら話は徐々に女子特有の話へと移っていった。 「スザク!」 が叫ぶと、スザクはぽかんとした表情で上を見上げた。そこにはピンクの髪をなびかせ、落ちてくる女性。わぁっ、とビックリしつつもスザクは女性を受け止めた。はほっと胸を撫で下ろした。二人とも、怪我もなく無事のようだ。 「大丈夫ですか?」 ピンク色の髪の少女は、目をまん丸としてスザクを見据えた後、にこりと微笑んだ。その笑みに、は元の世界の彼女を思い出した。 「どうか、しましたか?」 はい?とは心の中だけで突っ込んだ。 「とスザクはお知り合いなのですか?」 スザクが照れたように微笑み、それを見て、もユフィも微笑んだ。 「ユフィ、先程はどうしてあのような嘘を?」 え、とスザクとがユフィを見ると、彼女は怪我をしたネコににゃあ、にゃあと話しかけている。その様子が、あまりにもラクスを思い出させ、は少し憂いを含んだ眼差しで見据えた。ラクス、と呟いて、ユフィを見つめる。彼女は今、無事なのだろうか。 「…っ!」 はそんな二人の様子を木陰から見つめていた。二人を見ていると、思い出すのはクライン邸の、ラクス自慢の庭でおしゃべりをするラクスと彼女の婚約者。…少しだけ切なくなった。 「、ネコの傷薬を買いに行こう。」 スザクに呼ばれ、はいつの間にか下を向いていた顔を上げた。具合悪い?と首を傾げるスザクに大丈夫、と答え、同じ様に心配そうな表情をするユフィに笑みを向けた。 「上手だね。」 軍のアカデミーで救護も学んだなどと、いえるわけが無かった。こちらの世界へ来てからずいぶんと嘘が上手くなったように思う。よく怪我をする友人がいたのは本当だが。スザクとユフィがそんなの嘘を疑いもせず納得している事に少し罪悪感を覚えたが、気にしないように努めた。改めてスザクがネコに触れようと手を伸ばしたが、ネコは威嚇してどこかへ行ってしまった。 「ネコ、お嫌いなのですか?」 そう、ですか?とスザクはユフィに聞くと、ユフィはえぇ!と自信を持って答えた。はそれを聞いて、心の中で否定する。――そんなことない、と。はだんだんこの場にいたたまれなくなってきた。ユフィを見ると嫌でも思い出す彼女。全く違う人物なのに、どうしてもラクスを連想せずにはいられなかった。元の世界へ戻る方法は手がかりも掴めない状態で、焦燥感だけが募っていく。部屋に戻って落ち着こう、とが帰宅を告げようとすると、ぐい、と手を引っ張られた。 「!もう少し私に付き合ってくださいな!」 帰ります、という言葉は結局の口から零れることなく、ユフィに引っ張られて再び街の喧騒へと紛れていった。 「なんなりとお申し付け下さい、お姫様。」 え、とスザクとの声が重なる。シンジュクは、先日の命令で壊滅状態だ。今ではイレヴンも殆ど寄り付かない、死んだ街と化している。ユフィはスザクをしっかりと見据えてもう一度、シンジュクを見せて下さい、と言った。 「シンジュクゲットーはもうお終いです…。やっと人が戻り始めたのに。」 スザクが言う。は再び墓へと視線を移し、手を合わせた。そこへ、この場所に不釣合いな声が聞こえてきた。三人がそちらを向くと、アッシュフォード学園の制服を着た男子学生が二人、興奮した面持ちで弾痕を検証したり、写真に収めたりしている。憤りを感じずにはいられなかった。 「とユフィはここにいて!」 待って、とが言う前にスザクは走り出し、彼らのところへ行ってしまった。ユフィと顔を見合わせ、とユフィも向かう。 「何しに来たんだよ、ブリタニアの奴隷が!プライドも仲間も魂も売り渡して、それでも日本人かよ!」 気がつけば、は玉城とスザクの間に割り込んでいた。スザクに殴りかかろうとして振り上げた手を玉城は止める事が出来ず、の左頬に当たる。はその勢いにバランスを崩したが、スザクに受け止められた。 「!」 、と呼ばれた少女を、玉置達は目を見開いて見据えた。は左頬を押さえながら、玉城を見据えて、止めてくださいともう一度言った。 「同じ日本人同士じゃない!どうして、そんな、」 すまなかった、と玉城はバツが悪そうに小さい声でに向かって言い、スザクや、学園の男子学生達に向かっては悪態吐いて去っていった。 「スザク、、大丈夫ですかっ?!」 助けてもらっておいて、どんな言い草だ!はとうとう我慢できなくなり、支えてもらっていたスザクの手を振り払うように離し、男子生徒に向かってにこりと微笑んだ。 「あなた達、隣のクラスのハリー・ドュークとリディ・マースでしょう?」 目を丸くしてを見つめる二人に近寄り、二人だけに聞こえるようには声を低くして言った。 「どんな噂があるのか存じませんが。…それよりも。帰り道、背後に気をつけて。月夜ばかりだと思わない方が身の為よ。」 にっこり、と笑顔を彼らに向けると、彼らはひぃ、と小さく悲鳴を上げ、ごめんなさいと情け無い声を上げながら逃げるように去っていった。 「…彼らに何を言ったんだ?」 にこりと笑ったままのに、スザクは少し引きつった笑みを浮かべた。ユフィはの笑顔の裏に気がつかないのか、的外れな質問をして、返って来た答えにそうですか、と納得していた。
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