狭いコクピット内で失っていた意識を取り戻すと、紅い惑星が幾つも誕生し一つの宇宙を作り上げていた。ズキンと傷が痛み、は小さく呻き右わき腹を押さえる。押さえた手には大量の血が付着した。――撃たれた箇所はまだ血が止まっていなかった。

 『宙域のザフト全軍、ならびに地球連合軍に告げます。―――現在プラントは地球連合軍との停戦協定に向け準備を始めています。それに伴い、プラントは臨時最高評議会は現宙域における全ての戦闘行為を停止し…』

 スピーカーからノイズ交じりのよく知った声が両軍に停戦を呼びかける。続いて、ザフト軍は撤退も命じられた。の瞳から透明の雫が溢れては、バイザー内を浮遊する。
 戦いは、終ったのだ。

 『――…っ!聞こえ――か?!大じょ――です―?!』
 「…ラクス?」

 自分でははっきりと発音したつもりだったが掠れていた。その声を聞き取り、スピーカーの向こうにいるラクスが、ともう一度名前を呼んだ。

 『良かった…。途中連絡が取れ―――心配し――た。艦へ、エターナルへ帰艦出来―――?』
 「ご、めんね。心配掛けて。機体の損傷が激しくて、自力では無理、みたい…(私の身体も、動けないもの…)」
 『―でわ、こちらが参――すわ。』

 わかった、と応えるとラクスの安堵した息が伝わった。バルトフェルトに指示を出す声が聞こえ始め、宇宙域にいるであろうアスラン、キラやカガリにもの迎えを頼む声が聞こえた。
 は再び小さく呻いて、傷口を押さえ息を殺した。ラクスにこれ以上の心配は掛けられない、というの気持ちがそうさせた。だが次第に霞む世界に意識を保つ事が困難になってきて、は自身の最期を覚悟した。
 開きっぱなしだった回線を通じて、ラクスへ伝える。繋がるかどうかは不明だったが、同様にフリーダム、ジャスティス、ルージュへも回線を開いた。

 「…ラ、クス、小さい頃は、ラクスの助けになる、事が、本当に嬉しかった。どこへ行くのもずっと一緒で、本当の姉妹の様に過ごした、日々は、絶対忘れない。」
 『…?!』

 ラクスの声はもう、の耳には届かなかった。

 「キ、ラ…ヘリオポリスで、あなたや、トール、ミリィ達と友人関係を、築けて嬉しかった。人種なんて関係ないって、事を、改めて考える良い機会だったの。カガリ、…最初はあなたの事、なんてむちゃくちゃな子、なんだろう、って思ってた。けど、無人島で、話しが出来て、少しあなたの事が、解って、良かったわ。もっと、早くに出会っていたら、私達、きっと親友になってたと思うの。」

 スピーカーからラクスの声とは違う少女の声が割り込んだ。続いて、二人の少年の声もの名を呼ぶ。は最後の力を振り絞って話し続けた。

 「アスラン、初めて、クライン邸で出会ったあの時から、ずっとあなただけ想って来ました。約束、守れなくて、ごめ、ん、なさい…今まで、たくさん、ありがとう…私、は、ずっと、あなたの事を――――。」

 最後の言葉は無重力の空間に吸い込まれるように消えていった。
 過ごした日々の様々な思い出が走馬灯のように脳裏を掛ける。どこか客観的に、はこれが走馬灯か、と納得した。シートに身を投げ出し、本当に最後の力を出しコクピットに貼ってあった写真を取ると、そこへ唇を落とした。

 「     」

 アスランが、と呼ぶ声がやけに近くに聞こえたのは、きっと、アスラン似の天使が迎えに来たからに違いない。
 一筋の光が差し込んだかに感じたが、の意識は完全にブラックアウトし、手からすべり落ちた写真が宙を舞った。

 

 

 

REGINLEIF

Prologue
*20080526*

 

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