=弐=



「これが金庫の鍵だ。校内に持ち込む以外のお金はここ”グリンゴッツ銀行”に預けるとよい」

そう言って分厚い封筒を差し出された。ダンブルドアはそれを持ったまま裏返すと、右下の方に描いてある地図を指さす。
そこには『入り口』と書かれた部分と『銀行』と書かれた部分の周辺が強調され、拡大された、なにやら見にくいものがあった。

「「銀・・・行??」」

は不思議な地図の方に違和感が行ったが、あとの二人はそうでなかったようだ。
呟きで返したのは泰明と頼久。やはり聞こえはするが意味までは分からないようである。

これは地道に覚えていくしかなさそう・・・・・・。



理解のいかぬ言葉に悩む二人に、は唸ったあと

「泰明さん、頼久さん」
「なんでしょうか?」
「銀行ってお金を預けるところなんです。・・・って、お金知らないですよね・・・。えっと・・・・・あとで教えます」

・・・・とりあえず保留することにしたのだった。






女教師は、泰明や頼久、そしての言葉に驚いた様だったが、まぁこういうことじゃよと笑うダンブルドアに、とりあえずは納得したらしかった。
いつの間にか空になったティーカップを手で弄び合間にクッキーを頬ばる老人は、こうしてじっくり観てみると柔和な面立ちだが、眼は以外と鋭く切れる人物なことがよくわかる。隣の女性ももちろんのこと。

この人達の所で魔法の勉強・・かぁ・・・・・・

京で龍神の神子として怨霊を退治・封印したり、土地を浄め回ったので、現代に居たときから考えればすでに魔法を使っている様なものだ。
とはいえ、幼い頃に憧れた魔法とはまた違う。

ふふっ、いいかも。
箒で空を飛んだり、遠いところから物を動かしてみたり。
今では殆ど諦めてしまったことが今、ここで叶うというのなら、長い物に巻かれてもいいかと思う。


、Ms.?」
「えっ!?はっはい!!」

ダンブルドアの説明はまだ終わっていなかった。
は驚いて背筋を伸ばしたが、赤くなった顔を隠すように下を向いた。

「君達を見ていて思うのだが・・・。儂の思うままであれば、今連絡の取れる後見人はいないね?」

はドキッっとして身体を縮めた。
普通入学には親のサインが付きものだ。もちろん他の書類も必要なことも知っている。
が、今の達にはその何一つそろっていない。

「あの・・・やっぱり入学に必要ですよね?
 私達いきなり予定外の所に出てきたので、本当に自分たち以外何もないんです」

本当は京に辿り着いたときから何も持っていなかった。
左大臣家に居たときは、藤姫のお父さん――左大臣が身元引受人になってくれていたらしいけど、今どうこうしてもらえるような状況ではない。

「校長先生」
「なんですかな、マクゴナガル先生」
「もうすでに奨学金の手続きでああしているのですから、この際なしでも・・・」

向かいに座る二人が、ひそひそと話を始めた。
会話の合間から、ホグズミートやら、試験、休みなどという単語が漏れてくる。
立場が立場だけに話に割り込むこともできず、は二人を見つめ、じっと待った。


「神子殿、誰か来ます」

5分くらい経った頃であろうか。頼久が小さく耳打ちをしてきた。
泰明も感知しているのであろう、が顔を向けたときはすでに扉の方を向いている。

「いらっしゃい」

トムがカウンターから新たな客人を迎えた。
ダンブルドアはおぉ、意外と早かったのう。とゆっくりと腰を上げ、入り口へと進む。これを見て頼久が椅子から降り、腰の物へを手を添えた。

「いやいや、気にすることはない。彼は儂の客人じゃよ」

ダンブルドアが言いながら達を横を通り過ぎ、一人の男を迎え入れた。
男はトムがドアを完全に開くのを待って、わざわざ外套を誇張するようにして入室する。そしてダンブルドアと対面し握手をした。また外套を翻すことも忘れずに。

「コーネリウス・ファッジだ」

二人は挨拶を交わしたあと、ダンブルドアが達の前に男を連れてきた。
彼は手短にそれだけ言い、一番奥の椅子に座る。
そしてたちが居ることが不満なのだろうか、鋭い目でじっとこちらを見てからダンブルドアへと言葉を向けた。

「お話とは?」
「丁度そのことについて貴殿に頼み事をしようと思っていたのだよ、ファッジ。
 それじゃあMs.、今日はこれくらいにしておこう。質問があればまた。トムに頼めば良いようにしてくれるだろうから」

なんだかいきなりの中断でよくわからないままではあったが、ダンブルドアは大事な話があるらしく、早く下がりなさいと言うようなニュアンスであったため、おとなしくその場を辞す事にした。





来て間もないが、わかりやすい構造のこの建物は、すんなりと自分たちの部屋へと導いてくれた。
分かれて部屋に入ると、空けたままの窓からもう低いところにある太陽が見える。こんなに時間が経っていたんだ、とほっと身体に溜まった空気を抜いた。
そのままベッドに体重を預ける。バウンドするそれが収まるのを待って、先程手渡された封筒をポケットから取り出した。
中身にもう一度眼を通すと、いままでの急な出来事が現実で、本当に京に辿り着いた時のことのようで、なぜか笑いがこみ上げてきた。

何故こんなことになってしまったのだろうか?
自分は確かに普通の女子高生であったのに。今では身体だけではあるものの年齢も退行してしまって・・・。
京を離れるとき、もうこれから何があっても驚くことは無いだろうと思っていた。しかし、待っているはずの懐かしい現代の代わりに現れたのはおとぎ話の様な世界。
わたしはこれからどうなってしまうのだろうか。
京の時の用に、何かに必要とされているのかと考えてしまうのは過剰なのだろうか。

いざ、迎え入れられる用意を見せられることでいろいろと考えてしまう。

自分は何をすればいいのだろう?
こんどこそ戻るために力を集めなければならない。
でも、あの鬼の一族のように犠牲者を出したくはない。


は己を割り切られずにいた。




最初この場面がパブであったことをすっかり失念してました(ぉ
ちゃんは龍神の神子として動くか、 として動くか迷ってます。
                                  2005.12.16up