急な話題に息を呑んだ。


龍神も言っていた。ここは京とはつながりのない世界であると。

だが、なぜこの老人はそのことを知っているのか?

こちらに来た所を初めから見ていたとしても、急に姿を現したからといっていきなり異世界という表現が出てくるのはおかしい。

離れた空間を行き来できる者は数える程にしかない。すなわち居ないわけではないのだ。

ここではごく普通のことなのであろうか

こっちの世界では居ない、だから異世界からの訪問者と判断した、というところだろうか?



「そう警戒しなさるなて。必要になったときだけ、必要な分を聞かせてもらうよ」

はダンブルドアを知らない。ダンブルドアもを知らない。
こういう状況下、普通ならば相手の情報・状況をねほりはほり聞くものである。
何から何まで不思議に感じてしまう目の前の人物。
なにか達について知っていることがあるとでもいうのだろうか。

「まずはここ(ホグワーツ)を選んだ経緯なんぞを教えてくれんかの」

・・・・・・・・・

考え過ぎ・・・・?








=七=



とにかく、事態の進展を望むにはあちら側の協力も必要である。
は事情を詳しく話す決断を下した。




「では、現代つまりMsが元々暮らしていた所に戻ろうとしたが、出てきたところはここの校内だったと」

“詳しく”とはいえ、京での生活をうち明けるほどにまで信用はできない。龍神の力はそこまで影響力の大きい存在と知ったから。
こちらにきたことと直接関係がありそうな物事のみを、できるだけ伝えた。

「だが、時間さえあれば戻ることは可能。そういうことかな?」

長い髭を玩び、少し考えたあと何か結論を出したようだ。まっすぐにこちらを見る。その眼はとても透き通っており、気を許せば吸い込まれていくのではないかと思うほどに意識を引いて離さない。
そして三人の顔を順に見た後、大きな袖から一本の棒を取り出した。
それをお互いの間にある小さなテーブルにコトリと置く。

「これは?」
「まぁよい、手にとって」

はダンブルドアの突如の行動を不思議に思いつつも、手に取ろうと腕を伸ばした。
その様子に頼久が鋭い視線を向ける。

長さは指揮棒と同じほどあるが、手に取った棒は以外と太く、なのに軽かった。

「振ってみなされ」

言われたものの、どう振ればいいんだろうか・・・
このくらいの長さで振る棒の動きというもので、イメージが湧くのは指揮棒だけ。とりあえず同じように振ってみようと緩く上下に揺らして見せた。

すっと上に引き上げ、手首を支点に手の重みで棒の先端を下げる。
下まできたところで手首を引き上げ、反動で棒先を跳ね上げて・・・
更にもう一度同じ動作を繰り返そうと手首を下げ始めたそのとき、棒の先端に白い光のようなものが見えた。
咄嗟のことに動きを止めようと力を入れる。しかし手は慣性に従い、新たな謎を生みながら棒先が下に向くまでに降りていく。


!?


発せられた光は、宙に浮いていた。
確かに棒の先端から発せられた光ではある、が先端から離れ、先端を下げ始めた位置の頂点に静止している。
まるでそこだけ時間が止まったかのよう、微動だにせずに。

「すばらしい!」

ダンブルドアが手を打って喜んだ。
それと同時に意識がこちらに戻され、の意識が逸れたからであろうか、光の玉も、無いはずの風に揺られたように散布して消えた。
あまりに一瞬の出来事であったために驚いた。
泰明と頼久もと棒を見比べ、なにか自分の中で結論を出そうと難しい顔をしている。
もちろんその変化はにしかわかるものではないのだが・・・

何がすばらしいのかわからないままではあるが、促されるまま、早々に泰明に棒を渡す
横に座る泰明の手元を凝視した。




泰明は首に下げている数珠が共鳴する。
明るい、だが可視出来ないほどではなく、程良い温かな光。



そして最後に渡った頼久。
ゆっくりおそるおそるではあるが、腕をあげ、顔の前まで持ち上げ・・・
勢いよく振り降ろした、その瞬間

!!

今まで光が出てきたり、物が光ったりするだけで、自体が行動するものではなかった。
だが、頼久が振った棒から出てきたものは風の刃。瞬く間に部屋中を駆け回る。
壁をつたって天井付近まで上昇したところで、やっと空気に紛れ、消えた。

はもちろん、頼久はあせった。
いきなりの不測の事態もさながら
風が過ぎ去った跡。本の背表紙や壁、棚には多数の裂傷が出来てしまったのだ。


一方、ダンブルドアは部屋中の傷を少しも厭う様子もなく、の時と同様に歓喜し、「ほぅ」だの「おお」だの言い、最後に皆素晴らしい力を持っておる。よいことだ。と一人頷き、付け足すのみで。



ダンブルドアは席を立つと、まっすぐこちらへと向かって来た。
怒られるっ
そう思って目を瞑り、体を堅くさせた。

・・・・・?

暫く経っても予測したことは起こらず、布のすれる音が再開されただけだった。
恐る恐る目を開けて観ると、見えたものは彼の後ろ姿。
相変わらず外套の裾を引きずっていて、よく踏まずに歩けるものだと感心さえする。
こんな時に感心できたりする、自分の心の転換の早さに自嘲しながらにも。

椅子に再度腰掛けたダンブルドアの手には先程の棒があった。
おそらく、先の行動は棒の処遇を持て余す頼久から棒を受け取っただけのものだったようだ。


“   ”

ぼそっと何かの言葉が聞こえた。
と、どこからともなくパシッという音が立て続けに聞こえ始めた。
突如のことに目が音を追う。
パシッ、パシッ、パシッ・・・。音は煙を伴い、ふわっっと拡散していくようだ。

少し時を置いたところで音が途切れ、部屋中が煙に覆われた。
其程濃くもない煙は瞬く間に消え、先程と変わらない部屋が移る。

ん?

は微妙な違和感を持った。
先程頼久の風が付けた本や棚の傷が、きれいさっぱり消えてしまっていたのだ。
傷といっても、それほど大きな裂傷ではなく、膨大な本の中ではよく観察しなければわからないもの。この変化がすぐに知覚できたのは、今までの経過を一部始終みていたから。

「さて」

一声かけられ、本へと向けられていた意識をダンブルドアへと戻された。
椅子に深くもたれていた彼は、のりだし、両手で頬杖をつき、切り出す。

「その待っている期間というものを、ここホグワーツ魔法学校に滞在するのはいかがかな?」



「─────はい?」

えっと、私は何を聞いたっけ?魔法??魔法学校って言った?

さん、前に聞いたこと忘れてます。



「ここには多くの書物もある。魔法を学び、学を積めば手がかりが見つかるやも知れぬぞ」
「は、はぁ・・・・・・」




表向きにはとても協力的で、魅力的な言葉。見知らぬ土地で、身柄を確保してくれるというものは何時でも何処でも有り難い物。
はこの提案を、理解しきれぬうちからではあるが、快く受けようかとも思った。

だが、ダンブルドアには他に思うことがあった。
達は知らないのだ。ここ、ホグワーツで突如姿を現した事がどれほど重大なことであるかを。


ホグワーツ魔法学校。
四人の創始者から続く、長い歴史を観てきたこの施設は、度重なる様々な魔法によって守られ、それは今も変わらない。
その為であろう、ホグワーツの敷地内では使えない魔法が幾つか存在する。
例えば空間の縮移動。外部からはもちろん、施設内同士でも使用はかなわない。はずだった。
今施設校長であるダンブルドアの前の三人は、この出来ないはず、いや出来てはならない現象を伴い、ここに居る。

この危険因子の可能性のあるキャリアを放置しておくことは、賢い選択ではない。意図、少なくとも理由が判るまでは目の届く場に置くべきだ。現校長はそう判断したのだ。



「あのー」
「何かな?」
「その学校、ですか?適齢期ってものがあるんじゃないんですか?」

おずおずと尋ねる。彼の思惑を知らない発言はあまりにも当たり前で、この場の緊張感を良い意味で壊した。
ダンブルドアは笑いながら、11歳からじゃな。と短く答える。

なんなんだろうこのこの老人は、もう。

「それじゃあ途中編入・・あっ、編入は違うか・・・・。私16歳なんですけど、五年生からの入学になるんですか?あっ!!でもそれじゃ泰明さんなんか!!!頼久さんなんて!!!」

慌ただしく左右を見やったあと、ほぼ飛び上がり立つ勢いで乗り出した。


『其ニハ及バヌ』


天災は忘れた時にやってくる。
本当の意味は大いに違っているのは知っている。それでもこのときは、この言葉ほどぴったり来る言葉はないと思った。

頭の中に言葉が降ってきたかと思ったら、みるみるうちに老人と座する机とが大きくなって・・・・

ずるっ

服に違和感を感じた。嫌な予感を感じつつも腕に目をやると、手は既に袖の奥。
もう何も言いませんよ、勝手にして下さい。項垂れながらもそう思った。
でも・・・・せめて一言教えてくれたっていいじゃない!龍神様!!
はぁと溜息をつき、そのままソファーに沈み、小さくなってしまった手でだぼだぼになってしまったスカートを力の限り握りしめた。



「神子?」





聞き慣れないトーンの声であるためすぐには気付かなかった。だが、すぐにその矛盾に気付き、恐る恐る横を見やる。
ゆっくりと視野に入ってきたのは、大きな狩衣に明らかに着られている泰明。先程までのキリッっとした長身の男性ではなく、お子さまサイズでソファーに座っている
急いで反対側を振り向く。
そこにも、思った通りの頼久の姿。大きくなった着物にあくせくしている。

(か・・・可愛い─────vv)

こんな状況で他に思いつく言葉はあるだろうが、と言われそうではあるが、今の二人を目にしては無理な事である。
泰明は元の顔立ちのまま、身体だけが小さく。頼久は幼少期の頃こうだったのであろう、前髪はきちっと揃い、幼い面立ちながらも利発さが前にでていた。

「ふむ。彼の姿無き四人目の客人の力かの。彼は私の意見に賛成してくれているらしい」

満足そうに微笑むダンブルドア。
この老人は目の前で何が起ころうとも動じないのだろうか・・・
は不満に思いつつも、正直強引ではあるが、道を示してくれたりゅうじんにちょっぴり感謝した。

でもなんでこんなことになったんだろ・・・・??


「神・・・神子殿・・・。これは一体・・・・・・」
「えっ?わたしが“始めるなら最初(11歳)からがいいなぁ”って、“でも11歳に混ざるには5年って大きいなぁ”って思ってたら、龍神様が・・・」

頼久は自分に起こった事態にようやく終止符を打てたようだ。

「龍神か・・・」

代わりに泰明さん・・なんかちょっと怖いです・・・


『気ニスル事ハ無イ。身体ノミヲ退行サセル事ナド造作モ無イ事ヨ』

だけに聴こえる龍神の意志。
つい先程まで泰明、頼久にも聴こえていたのに、急に解かれて困るのはだ。先程のこともだが、こういうことはゴメンである。

「身体だけ時間を戻したみたいだそうです。1年生から入学してもおかしくないようにって・・・」

とりあえず言われた事を二人にも伝える。二人ともさっきの言葉で多くを理解していたであろうが。
さて、これで老人の申し出を辞退する理由がなくなったわけで─────

「よし、決まりじゃ。宿は話をつけておこう。さっそく行くがよいて」

立ち上がり、満面の笑みで大きく頷くと、引き出しから小さな革袋取り出しに手渡した。

「よいか、この手段は今回が特別だからのこと、今後はないということを踏まえ、公言せぬと約束して欲しい。どうかな」

当事者の意志をほぼ無視している気がしないでもないが、この問いにずり落ちる制服を両手で押さえながら、頷くことで返した。




11歳姿の泰明さん・・・・・見・・見たいっv(腐
原作でちっちゃい頃出てないの京組って友雅と泰明だけでないっすか?
泰明は絶対出ないんだろうから、余計に水野さん画で見てみたいというか・・・・
遙か幼稚園であれだから余計に見てみたいw

次、あのお屋敷だしま〜す
                                  2005.08.18up