とスザクは教室を出て、エントランスの方へ向かった。校舎や校庭には先程のミレイの校内放送を聞いた生徒達が必死に猫を探している。部費の優遇が表立っての褒美となっているが、大多数の者は副賞である生徒会メンバーのキスを狙っているようだ。その効果は絶大で、至る所で生徒会メンバーの名前を挙げては唇ゲットだぜっ!と某モンスターを捕獲した時の主人公の決め台詞が聞こえる。どこからか、ちゃんのキス!!と大声を上げながら草陰を探してる男子生徒を見かけて、はげっ、と思わず声を上げた。 「うわー、なんでそんなに張り切るかなー…。」 あはは、とスザクはもう一度笑った。 「どこに行っちゃったんだろう…。あ、っ何処へ?!」 突然走り出したの後をスザクも追いかけた。 「ルルーシュ!」 にゃあ、と猫の泣き声がして三人は上を見上げる。この上ね、とが呟いてルルーシュに一度視線を向けて、三人の中で一番最初に昇り始めた。 「あ、っ待って!」 ルルーシュの悪態吐く声が途切れ途切れに聞こえてくるのを、はくすりと笑みを零した。なんて、仲が良いんだろう。アスランとキラも昔はこんな風に仲が良かったのだろうか? 「居た!」 は塔の一番上に辿り着いた。猫は仮面をつけてこちらを伺うように窓枠に乗っている。怖がらせないようにゆっくり近づくと、猫は何かを悟ったのかの方へ歩き出した。十分に距離を詰めて手を差し伸べるとその手へ猫は身を摺り寄せてくる。 「「あっ!」」 とスザクの声が重なった。慌ててが窓から顔を覗かせると猫はさらに上に設けられた鐘の枠に居た。 「ご、ごめん、ビックリさせたみたいで余計に上に行っちゃったね。」 が窓枠に足をかけるとスザクは頬を少し紅く染めて待って!とを引きとめた。視線をからそらしながら、僕が行く、という。 「私なら大丈夫よ?」 あぁ、とは呟いて窓枠から足を下ろした。それを横目で見ていたスザクはほっと息を吐いてようやくを見た。頬はまだ赤い。 「スカートの下はちゃんとトレーニングパンツ履いてるよ?」 そう?とは首をかしげながらスザクに道を開けた。彼は身軽に屋根の上に降り立つと、滑らないように注意しながら這って上に居る猫に近づいていった。ようやくルルーシュが辿り着き、が窓のところにいるのを見て仮面は?!と小声で怒鳴るように言った。はそこに隠したと、言おうとしたがルルーシュは返答も聞かずに窓枠に足をかけ、屋根へ出た。足元を注意する余裕も無かったのか、ルルーシュは足を滑らせ屋根を下へと滑った。それを見て焦ったのはだ。 「ルルーシュ?!」 下からもルルーシュ君!などと悲鳴が上がり、猫を追い詰めていたスザクは慌てて後方を見て状況を把握し、屋根を滑り降りて右手は窓枠に、左手をルルーシュに伸ばした。そのスザクの手をルルーシュは握り返し、ある程度昇ってくると、も微力ながらルルーシュを引き上げるのを手伝った。 「さっさと言え!」 むっとして答えるとルルーシュの眉毛が上がった。何か言おうとして口を開いたルルーシュだったがそこへ助けた猫を抱いたスザクが戻ってきた。 「待っててくれたの?先に下りててくれてよかったのに。」 降りよう、とが促すと二人はを挟むようにして隣に立った。他人のフリをしよう、といったスザクだったけれど、この中で一番嬉しいのは彼のはずだ。仲の良い二人が、友達の二人が他人のフリをするなんて、おかしい。は降りる間ずっと、どうにかしてスザクの人の良さをみんなに示すかを考えていた。 「ありがとう!ルルを助けてくれてっ!」 ミレイが至極楽しそうに残念〜、というのをルルーシュは低い声でぐったりしたように呟いた。はその様子を見て微笑んだ。だが、柔らかくなった雰囲気はニーナの一言で再び冷めたものになる。 「…二人は、その…友達なの?」 その問いにはっとしたのはルルーシュもスザクもだった。一瞬の沈黙の後、スザクが否定しようと口を開いたがルルーシュが断言した。 「友達だよ。スザクは友達だ。――会長、こいつを生徒会に入れてくれませんか?アッシュフォード学園は必ずどこかの部に所属しないといけない。しかし、こいつは…、」 リヴァルとシャーリーのおかげで場の雰囲気は一気に軽くなった。ただ、ニーナだけが不安そうに表情を歪ませていた。、ミレイ、ルルーシュ、スザク、カレンはその様子に気付いていたが、何も言わなかった。スザクが日本人であることは覆せない事実であるし、ニーナに日本人を好きになれ、なんて言える訳が無かった。 「よかった…!お兄様、スザクさん。お二人ともちょっとお耳を。」 ルルーシュとスザクは顔を見合わせたあとナナリーの方へ耳を近づけた。その瞬間、二人の頬に軽いリップ音がし、びっくりしてナナリーから距離をとる。 「ミレイ会長が公約なさったご褒美ですわ。お二人ですし、ここは半人前の私で、許してくださいね。」 にこりと笑う盲目の少女に、頬にキスされた二人も優しく微笑んだ。後ろからそれを見守っていたも、いつかアスランとキラがこんなふうに笑い合える日が来ることを祈って、微笑んだ。 「私がここにいるのは迷惑か?」 は言葉を失った。ラクスが無事に助け出された事は喜ばしいことだが、どうして、アスランとキラが!説得を諦めたということ?!同じコーディネイター同士で、友達なのに! 「…お願い、私を元の世界へ戻して!」 フン、とC.C.は鼻で笑い、偽善だなと呟いた。 「お前を元の世界へ戻すことは今は出来ない。そういわれてるからな。それに、私じゃお前を元の世界へ戻してやることができない。だが、こうして情報を与えてやることは出来る。それで我慢しろ。」 C.C.はピザの箱を持ち、退室しようとドアの方へ向かった。ロック解除のパスワードはだけしか知らないはずなのに、C.C.はいとも簡単に解除してしまった。は丸くしていた目を更に丸くした。 「…、解除パスワードはもっと難しい物にしておけ。男の名前など…。あの鈍感そうなルルーシュですら解ってしまうぞ?」 の頬に朱が差したのをC.C.は揶揄し、退室していった。残されたはへたへたと地面に腰を下ろし、息を吐いた。 「…やっぱり簡単なパスワードはよくないわね…。元の世界に戻ったらヴェザリウスの自室のパスワードも変更しないと…。」 は自嘲した。――なんて、未練がましい女なんだろう。
|