星が輝く夜に、白い花が一面に咲き誇っていた。 「…冷たい…?」 は肩を大きく震わせた。背後を振り返ると紅い長髪が風に靡いている。顔は暗くてよく解らなかったが声の高さや、背丈からとそう歳の変わらない少年のようであった。 「聞こえているのか?」 返事を返さないに少し苛ついた声がかかる。少年は慎重にの様子を伺いながら近寄ってきた。 「こんな夜中に、何故ここにいる。名は?目的は何だ。」 は心底困った。はっきり言って、自身は先程ベットにもぐりこんで眠りについたはずだったのだ。 「わ、私!気付いたらここに居たの、」 は耳を疑った。今、少年はなんと言った? 「え、今なんていったの…?ここ、日本じゃないの?」 少年は言葉遣いこそ悪いものの、丁寧にに教えた。はっきりと場所を言われ、は思わず座り込む。少年の焦った声が聞こえた。 (わ、たし…、さっきまで部屋に居たのよ?なんで…、) 冷たい風には身体を抱きしめ、混乱する頭を必死に整理しようとするが上手く出来ずに、遂に涙が零れた。 「お、おい、何も泣かなくても…。」 少年はうろたえる。夜中ということで騎士達は数人の見張りを除いて休んでいる。テントから抜け出した事は直ぐに見つからないだろう。 「…俺はルー…、…アッシュだ。」 ああ、とうなずいて少年―――アッシュはの傍に腰を下ろした。 「もう一度聞く。何故此処にいる?」 アッシュは目を瞬いた。…が、どうも嘘を言ってるように感じられなかった。 「信じるよ。」 潤んだ瞳を細めては笑顔を作る。アッシュは照れるのを隠す為にそっぽ向いて鼻を鳴らした。 「だから泣き止め!…女の涙は苦手なんだ…。」 アッシュはもう会う事を諦めた王女に想いを馳せた。大人になったら一緒にこの国を変えよう。その約束は、きっと果たせない。 「アッシュ…元気出して。」 アッシュはもう一度鼻を鳴らした。だが、の言うとおりかもしれない。 「…っ、」 そう言った時、我慢しきれずアッシュの目尻から一筋光が頬を濡らした。はぎゅっとアッシュの手を握る。 落ち着いた頃、空と地面とを分けていた線上が微かに明るくなっていた。 「す、まない…。取り乱したところを見せて。」 は何か言おうとしたが結局何も言えずに、立ち上がった。夜、咲き誇っていた白い花はいつの間にかしぼんでいた。 「花が…。」 アッシュも立ち上がった。ヴァンの所へ行こう、とを促す。それに頷いて、がアッシュを追いかけて振り向いた時、異変を感じた。 「アッシュ…、」 え、とアッシュがを振り返ると、すでに半分以上透けてしまっているが居た。 「私、戻れるのかな?」 不安げに尋ねるに、そうだろう、としかアッシュは答える事が出来なかった。そして、アッシュはビックリした。心のどこかで、に消えるな、と叫ぶ自身が居る。 「アッシュ、傍に居てくれて有難う…。一番最初に見つけてくれたのがアッシュでよかった。」 は綺麗に笑った。アッシュは思わず一輪のセレニアの花を摘んで無言でに差し出す。 「アッシュ!そこで何をしている?!」 アッシュは返事をして、テントをくぐる。 雲ひとつない朝焼けの空が一日の始まりを告げた。
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瀬畑はカーテンを勢いよく開けて、太陽の光を受け入れた。 「お嬢様、おはようございます。今日もいい天気ですよ。」 は小さく身じろぎして、起き上がった。メイドが服の準備をしてにおはようございます、と挨拶する。 「お嬢様、旦那様と奥様がお待ちですわ。急いで準備いたしましょう。」 がベットから這い出て着替えをしている最中にメイドは枕元で花を拾う。それを見ては目を見開いた。―――夢ではなかった! 「田取さん、それ花瓶に挿して置いて。」 はその花を数秒見つめて、ふと笑みを浮かべた。 太陽の光はいつもの日常を照らしていた。
10年後もこの場所で 会いましょう
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アトガキ。 時期として、ルーク(アッシュ)が誘拐されて一年後くらいの設定。
ここまで読んでいただいて有難うございます。
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