The meaning born by
pair of the wings
生まれた意味
『まるで私の心を読んだかのような態度をとるのですよ。』 「…っ!」 ガバッ、とは効果音つきの起床を果たした。身体中、特に背中に嫌な汗をかいていて、顔をしかめた。――どうして、昔の夢なんか…っ! 『あんたなんて生まなければ良かった!』 全てを否定した言葉は当時六歳だったにでも理解できる。実の母親にまでイラナイ、と言われはその時から一人で生きていくことを強制された。 「おはよう、。」 は微笑んでハオに挨拶を返した。少し眉を寄せて見たんだね?とハオが問いただせば、はうん、と小さく頷いた。ハオは小さく息を吐き、にシャワーを浴びるように勧めると、ほんのりとの温もりが残るベッドに腰を下ろした。 「…は僕と同じなんだ、僕が守ってあげないと…、」 千年も昔に知った心の傷。あの時ハオはたった一人だった。だから鬼に喰われてしまった。しかし、にはハオがいる。 「僕が居るから。もう、苦しまなくていいんだよ、…。」
*
シャーマンファイトが東京のとある無人島で本戦を開催している頃、参加者達は自分のファイトが無い時は他の参加者のファイトを観戦するか、トレーニングをするか、休息するか位しか選択肢が無かった。娯楽が無いわけではなかったが、それにもすっかり飽いていたハオは趣味の作曲もそっちのけで暇をもてあましていた。何しろ、ハオは巫力125万を誇る神クラスのシャーマン。対戦相手は、ハオが対戦者と知っただけでファイトを棄権するものだから、ハオのシャーマンファイトは不戦勝が続いていた。 「ねぇ、オジサン。何してるの?」 第三者の声に男とはびくりと肩を震わせた。路地裏には男との二人しかいなかったはずだ。キョロキョロと辺りを見回すが、影も見当たらない。その二人のしぐさにハオは声を上げて笑った。 「アハハッ、僕はここだよ、オジサンっ!」 上を仰いだ男は驚愕に目を見開き、も口をぽかんと開けて空を見上げている。霊の見えない人間が今のハオを見ると空中に浮いているように見えるだろう。 「オジサン、何してるの?大の大人が、こんなことして良いと思ってるんだ?は女の子なんだよ。身体に傷をつけていいのかい?」 男との目が再び大きく開かれた。 「おいガキ!お前何者だ!何故宙に浮いて…っ?!」 男はのお腹目掛けて蹴り上げた。それを目にしたハオは瞳に炎を宿らせる。 「…オジサン。聞こえなかったのか?いい加減にしろよ。じゃないといくら温厚な僕でも誤って殺しちゃうよ?」 にっこりと笑みを浮かべていうセリフではない。物騒な物言いに男はすっかり頭に血を上らせ、罵声を並べ叫び続けている。ハオは小さく息を吐き、スピリットオブファイアから降りて、呻いているの傍に駆け寄った。 「、大丈夫かい?」 ハオはを支えながら立ち上がらせた。そのままスピリットオブファイアへ導こうとしたが男の醜い声が邪魔をする。 「ガキがっ!そいつをどこへ連れて行こうというんだ!そいつは俺の商売道具なんだよ!」 ハオが声を上げると呼ばれた精霊は手を男へ伸ばし、ぎゅっと握り締めたかと思うと手の中のものを燃やした。男の悲鳴が路地裏に響く。は目の前の光景が信じられないのかぎょっとして、もう原型すらとどめていない男だったものを見据えている。数分のうちに、男は路地裏から消えてしまった。 「お、やじさん…、」 ハオはゆっくりと右手をへ差し出した。その手を取るかは少し悩んだ後おずおずとハオの上に自分の右手を乗せた。しっかりとの手を握り締め、ハオは先程の笑みとは違う柔らかい笑顔を浮かべて行こうか、と促した。
*
湯船に浸かりながら、はハオに連れてこられたときのことを思い出していた。の知らない事を全て教えてくれた彼。彼の仲間だという者達と出会い、友情を築いた。そして今は優しく気にかけてくれている。――そう考えるとは鼓動が早くなるのを感じ、きゅんと胸を締め付けられる思いをするのだ。この気持ちはきっと、 「私はハオが好き…、」 声に出すと反響して思いのほか大きな声で呟いたように聞こえた。恥ずかしくなってぱしゃん、と水面を大きく揺らして頭を振った。 「ハオ、ありがとう。」 お風呂上り特有の石鹸の良い匂いと共に、は笑顔と感謝の言葉をハオに届けた。ハオは瞬いてを凝視する。 「ハオにね、出会えてよかったなーって!あの時、ハオが私を助けてくれなかったら、私はずっとあのままだった。友情も知らず、信頼も知らず、一人孤独に生きて行くしかなかった。けど、ハオは私に与えてくれたの。人の温もりを。私はその温もりを知らずに一生を終えたかもしれないと思うとハオとの出会いに感謝すべきだと思ったの。だから、ありがとう。」 なるほど、とハオは頷いてを呼び寄せた。呼ばれるままにハオの方へ近づくと手を伸ばせば届く辺りでぐいっと引っ張られ、ハオの腕の中に収まった。 「わっ?!」 じっと黒い双眸に見つめられて、の頬にだんだんと朱が差す。は?とハオに返事を聞かれ、真っ赤になった顔を見られないようにそらしてから、好き、と蚊の泣くように呟いた。 「、聞こえないよ。」 至極楽しそうにもう一度、というハオはさっきの言葉をしっかりと聞いていたんだろう。は意を決して、ハオの顔を見上げ、もう一度言葉を発した。 「ハオが好き!」 言った途端ぎゅっと抱きしめられ、はふわぁ?!と変な声を上げてしまった。 「、ありがとう!嬉しいよ。」 ポロポロと涙が流れて、言葉がつむげなくなると、ハオはあやすようにの背中を撫でた。そして、耳元で優しく囁く。 「、生まれてきてくれてありがとう。」
(人は誰しも平等に愛される)
今から五年程前に書き下ろし、お題に参加させて頂いたお話でした。 えり
|