あたしは廊下から、部屋の電気が消えていて、誰もいない事を念入りに確認してから、事前に調べていた部屋の暗証番号を入力して中へ侵入を果たした。
 この部屋の持ち主である彼は、現在、議員会議や、隊長会議などであちらこちらに引っ張りだこになっている。あたしは部屋の鍵を閉めて元通りに戻しておいた。
 殺風景な部屋には少し大きめのワークデスクと、真ん中に談笑用のソファーと簡易キッチンが設けられている。殺風景なのはどこも同じだが、あたしの部屋に比べればすわり心地の良さそうなソファーがあり、同じ大きさの部屋を一人で使用できるという点が違う。
 あたしは少し口を尖らせながら、中央のソファーに深く腰を掛けて足を組んだ。もちろん、視線の先にはドアがあり、誰かが入ってこれば直ぐに目が付く。
 左腕の時計をちらりとみて、時間を確認する。――予定通りだとあと十秒で彼はこの部屋に戻ってくるだろう。そして、私を見てこういうのだ。何故、お前がそこにいる?!

 10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、…。

 ロック解除のピ、という音がして、光が部屋に差し込んだ。二人分の影が伸びてあたしの足元に届く。部屋主の彼は少し眼を見開いてあたしを凝視した後、眉間にしわを寄せた。

 「何故、お前がそこにいる?!」
 「わぉ。時間ピッタリの上に、あたしの期待を見事に裏切らないでくれてありがとう!」

 おどけて言うと、彼の後ろにいた長身の青年がぶーっ、と噴出した。もちろん彼はすぐにその青年に向けて睨みつける。

 「…と、まぁ、冗談は置いておいて…。久しぶりね、イザーク。――ディアッカ。」
 「俺はおまけ扱いかよ。」
 「…フン、良い気味だ。それよりも!何故部屋の中にいるんだ、お前は。」
 「あたしにかかればイザークの尾行の一つや二つ…あ、なんならスリーサイズまで披露しましょうか?」
 「――っ!言わんでいい!」
 「お前、それ尾行って言わないぞ、ストーカーだ。」

 イザークは顔を赤くして、ようやく部屋に入った。ディアッカが言わなくていい一言を言ってしまったのであたしは華麗に奴の腹筋めがけてストレートパンチをお見舞いしてやる。――うむ。見事な筋肉だ。あたしも立派な腹筋が欲しい。

 「そんなは嫌だ。」
 「あれ、声に出てた?」
 「、み、見事なパンチだ…俺はいつでもお前をリングへ送り出す準備はできている。」
 「何を言ってるんだ、ディアッカ。お前がそんなのだからが悪乗りするんだ。」

 イザークは少し疲れた様子で息をつき、ワークデスクの大きめの椅子にゆったりと腰掛けた。

 「ま、いいじゃん…。―――それにしても腕を上げたな…むちゃくちゃ痛ぇんだけど。」
 「はっはっは、イザークの右腕がいついなくなるかわからないしね。」
 「ディアッカを右腕と認めた事は無い。」
 「イザークももヒドイ…。」
 「わ、わ、わ…冗談、冗談!ちょ、ディアッカ、戻っておいでー!」

 部屋の隅に座ってキノコでも生やしそうな雰囲気のディアッカに思わずあたしは謝罪を口にした。イザークは椅子に座ってわざとらしく大きな息を吐いた。

 「溜息ばっかりだと、幸せが逃げるよー?」
 「誰のせいだと思っているんだ。」

 イザークはアイスブルーの瞳を細めてあたしを睨みつけた。それをあたしは笑ってごまかす。
 ディアッカが簡易キッチンへ向かい、お湯を沸かし始めたので、あたしもコップを三つ出して準備をする。

 「インスタントでいい?」
 「それしかなかろう。」

 はぁ、と大きな溜息が聞こえてきて、あたしとディアッカは顔を見合わせてにやりと笑みを浮かべる。
 数分後にお湯が沸き、インスタントコーヒーを入れたカップにお湯をなみなみと注ぎ、あたしは角砂糖を二つ、こっそりと落としたカップをイザークの目の前に置いた。これも、とディアッカが差し出したクッキーも忘れずに。
 あたしとディアッカは中央のソファーに二人並んで腰を下ろした。もちろんイザークが見えるように。その座り方に眉をひそめつつ、イザークはコーヒーに手を伸ばし、そして口に含んで、噴出した。

 「ぶはっ、なんだ、この甘いコーヒーは!俺はブラックかミルク入りしか飲めないのを知っていてこんな嫌がらせをするのか?!」
 「まぁ、まぁ。落ち着けよイザーク。俺もも、節穴じゃ無いんだぜ?もっと肩の力を抜けよ。お前ばかり責任を負う事はないんじゃないのか?――そりゃ俺たちに出来る事って言えばあんまり無いのかも知れないけどさ。」
 「ディアッカの言うとおりだと思う。本来ならあたし達みんな、失おうとしてた命だけどここにいるじゃない。もっと気楽にいこうよ。じゃないと息が詰まっちゃうよ。」

 ずずっ、とコーヒーをすする。猫舌のあたしにこの温度はまだ熱い。ぺろっ、と舌を見せると今度は呆れた溜息が聞こえた。

 「まったく…お前達といるから疲れるんだな、きっと。」
 「イザーク、それひっでぇ!」
 「ひっどぉー!」

 あたしとディアッカからの不評にイザークはようやくフ、と笑みを見せた。あたしとディアッカも自然と笑みを浮かべる。

 「ま、これからじゃんよ。頑張ろうぜ。」
 「そうだね!とりあえず、今は、」

 

 

 

お疲れ様でした。

(角砂糖二つ入りのコーヒーはまだ飲んでないディアッカのと交換されました)

 

 

 

 

 

 

時間軸は、ヤキン戦の後、条約締結して、イザークが一時評議会メンバーの頃。

連載終了お祝いにCHIKIRI CAFEの管理人・ちきりさんに贈ったもの。
ヒロインはちきりさんの子を想像しながら書いてたのですが、どーも偽物くさい。(苦笑
なにわともあれ、連載終了お疲れ様でした!   えり 20061129/20080506