「"今のことは全て忘れろ"」
「…あなたって、器用だけど不器用よね。」

 あぁ俺もそう思うよ、とルルーシュは笑って同意した。
 ブリタニアの合衆国参加の調印式が終わって数日後、ルルーシュとはアッシュフォード学園の屋上にいた。夜空にはぽっかりと真ん丸お月様が浮かんでいて、制服に身を包んだ二人を優しく照らしている。
 ルルーシュの眼には怪しく光る模様が浮かび上がっている。今までじっくりと見る機会はなかった。これが、ギアスなのか。

「この眼を見るのは、は三度目だな。」
「ううん、四度目だよ。記憶を書きかえられた、でしょ?前ブリタニア皇帝に。」

 そうだったな、とルルーシュは視線を落として頷いた。
 一度目は本当にギアスの力が働いた。アーサーに仮面を奪われた時、思わずに使用した。二回目はクラブハウスでC.C.とゼロの姿で会話しているのを見られた時だった。そこから、二人の運命は変わった。最初は偽りだった関係がやがて本物になるなんて、当時は予想もしなかっただろう。

との関係は、俺の不注意から始まったな。」
「そうね…。最初はアーサーに仮面を奪われたんだっけ?」
「そうだ。正体を隠すためにも、仮面を見られたから思わずギアスを使用した。」
「でも、二度目の時は不可抗力だわ!私まだ姿を見ていなかったし、誰が話しているのかも、話の内容も知らなかったのに!」

 ぷぅ、とは頬を膨らませ、上目づかいにルルーシュを睨みつけた。ルルーシュはそんなに、にやりと笑みを浮かべて言った。

「俺に見つかったのが、の不運さ。」
「確かにね!あの時のルルーシュったら、いつもの姿からは想像できない程驚いてて、後でよく考えてみると貴重な姿を見たわ。みんなに言い振り回せばよかった!…でも、そのおかげでゼロの正体を知ったし、ゼロに私を知ってもらえる事が出来た。そういえば、あの時も半ば強制的に付き合う事になってたね。」

 当時を思い出しながら二人は声を上げて笑った。

「三度目は、前ブリタニア皇帝に記憶を書きかえられた時だったわ。父が爵位を持っているとはいえ、初めて対面したんだもの。あの時は怖かったというのもあるけど、ギアスという能力の方が脅威だったわ。」

 夜風に当てられて身体が冷えたのか、は自分の身体を抱いてぶるりと震えた。ルルーシュはの肩を抱きよせ、身を近付ける。

「記憶を無くすというのが、こんなにも恐怖だと思わなかった。嫌な事はいつもすぐに忘れたいと思うけど、忘れたくない。全て経験してきたもので、私を構成してきた思い出だもの。だから、何で思い出したのか理由はわからないけれど、思い出せてよかった。」
「その気持ち、よく解るよ。俺も奴に偽りの記憶を書きこまれた。」

 私達似てるね、とは努めて明るい声で言った。

「ねぇ、ルルーシュ聞いてもいい?いつから、私を?」
「『』と知ってからだな。ずっとどんな人物か気になっていた。それが同じ学園のだとは思わなかった。だから、あの時は監視という名目で、俺の傍に。」
「そうだったんだ…。私は最初ルルーシュのことを、ゼロだから気になってるんだと思ってたわ。ゼロには憧れとか、希望とか、いろんな魅力があったから。私には力がないから、何か支えることができれば、ゼロの力のひとつになれると思ってた。けど、気がついたらゼロじゃなくてルルーシュっていう男の子のことが気になっていたの。ゼロとして活動している時も、危険な状況に陥っていないかとか、怪我していないかとか心配だった。」

 私達本当に似た者同士ね、とは笑った。二人の間を快い風がすり抜け、月明かりが優しく包み込んだ。

「ルルーシュ、あなたの決心は変わらない、よね。いつも有言実行してきたあなただもの。」
「あぁ…。済まない、」
「謝るくらいなら最初からその選択だけはして欲しくなかったな。」

 寂しそうに笑うに、ルルーシュは何も言う事が出来ず無言で見つめるしかなかった。
 
「私、以前にも言ったことがあったよね。あなたがゼロでも、ルルーシュ・ランペルージでも、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアでも、その他の名前でも…どんなあなたでも好きです、って。だから、世界中の人がルルーシュを悪王だと罵っても、私はルルーシュを信じてる。」
…、ありがとう。」
「ルルーシュ…私は優しくないから一緒には逝ってあげない。ルルーシュの最期をこの目で見届けて、その後の世界を代わりに見ててあげる。もし、仮に、万が一、ルルーシュの想いと違う世界になった時は…、その時は私が『ゼロ』になってあげるね。」
「ああ、それでいい。その時はよろしく頼むよ。」
「うん…、」

 は口を噤んだ。いつの間にか大粒の雫が頬を濡らしている。声を上げまいと必死に堪えてるに、ルルーシュはそっと手を伸ばし涙を拭った。

「ルルーシュの、バカ。」
「バカとは酷いな。テストでより悪い点数を取った事がない。」
「バカはバカなのよ!」

 眉間にしわを寄せて困った様に笑うルルーシュを、は赤くなった瞳で見上げながら、精一杯の笑顔で言った。

「…ルルーシュ、いいこと教えてあげる。日本にはね、輪廻転生って言葉があるの。人は転生し、動物なども含めた生物に生まれ変わるの。私達がこうして一緒にいるのは、前世から決まっていたことなのよ。だから私達、来世でも一緒にいるわ。」
「…そうか、輪廻転生か…。それじゃあ俺達は、」







何度も何度も同じ君に


恋をする。

(幸せな未来-あした-の為に、現在-いま-は辛くとも…)













えり / 20090207 / 企画:アダージオ / お題:0701 黒猫ロロ



素敵な企画に参加できて光栄です。神奈さん、参加承諾ありがとうございました。
ここまで読んで下さった"あなた"にもお礼申し上げます。
二人の物語が気になる方はこちらで閲覧できます。